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……と、言っている間に着替えが完了した。うん。着てみてわかった、これはいい生地だ。
触っただけでもわかる感触に思わずおののく。一体鮎川家のどこにそんなお金があるのだろう。
一度興味本位で父さんに聞いたときにもっと掘り下げるべきだったか。
いやでも、「萌えのためならいくらでも!」と鼻息を荒くしてそう答えた父に、これ以上何を問えばいいのだろうか。
俺は両親のことが少し分からなくなってきた。
深くため息をついていると、ぐうぅ〜と盛大にお腹が鳴った。そういやもうそんな時間か。
学校指定のカバンを持ち、朝食をとるためにリビングに入るとそこには先客がいた。
「あれ、父さん?遅くない?いつもならもう出てる時間なのに」
「あぁ、紘は今日が入学式だろ。ちょっと話しておこうと思ってな」
「いや、入学式っていってもそのまま上がるだけだから。何、話しておくことって?」
「あのな紘……彼氏、できてるなら連れてきてもいいんだぞ?むしろ連れてこい、な!な!!」
「はい父さんいってらっしゃい。帰ってくるときには治ってること信じてるよー」
そう言って、スーツ姿の父さんを送り出すと「俺は信じてるからなぁ」と、言いながら出ていった。
何を。
大体俺は自分以外に萌えるのであって、自分が関わった時点で萌えることはない。むしろ嫌悪する。
唾をペッと吐きたい気持ちにかられながら、朝食の準備をする。今日は何を塗ろうかなぁ。いちご?ブルーベリー?はちみつもいいなぁ。
朝はもっぱらパンで済ませることの多い俺は、食パンを焼きながら何を塗るか考えていた。
よし、ママレードにしよう!
戸棚からジャム瓶を取っていると、ふと母さんが起きてきていないことに気づいた。おかしい。普段ならいち早く起きて薄い本読み漁ってるのに……。
気になった俺はジャム瓶を置いて母さんの部屋に向かった。別に普段なら遅くても問題ないが、今日は入学式である。母さんもこないといけない。
「母さん?開けるよ?」
ドアをノックするも反応が無かったため、そう言いながら開けるとベッドの方から微かに声が聞こえた。
「母さん?」
さらに近づくと、今度ははっきりと
「受けちゃん可愛いぃ」
「起きろバカ腐女子いぃぃぃぃ!!」
おもいっきし布団を剥いでやった。
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