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コンビニにて、
「強盗だ!金を出せ!」
銃を突きつける、全身真っ黒な強盗犯。
口と鼻と目だけが純正。
見てくれはさながらクマだ。
慌てふためく禿げた店員。
「全部持ってこい!全部だ!」
慌てふためく眼鏡の店員。
「妙な真似は起こすなよ。俺はすぐ発砲するぜ」
妙なこと、なんとも抽象的な発言だが、それで全てが伝わってしまうのが怖い。
慌てふためく老いぼれた店員。
「コンビニ袋にでも詰めろ!さっさとしろ!」
3人の店員は思考もままならないまま、コンビニ袋にお金を詰め始めた。
強盗犯はその様子をレジの前で眺めている。
5分後、お金を詰め切り眼鏡の店員がコンビニ袋4つを渡し一一一一
「ちょっと待ってくださいよ筆者さん」
なんだ。
誰かが揚げ物の調理場に隠れている。
「僕を忘れてもらっては困りますね」
君は……
「コンビニ袋では逆に怪しいのではないですか?」
そいつはレジの方へ歩き出す。
1歩、また1歩、丁寧に、丁寧に。
さながらどこかの宝島のように。
「誰だ!」
誰だよ!
「僕はこの物語に本来いない存在。しかし、このコンビニの店員であることは確か。さしずめインテリな店員と言ったところでしょうかっ」
渾身のドヤ顔である。
私が設定したシナリオにこいつは出てこないはず。
何せ登場人物は4人と最初に決めたのだから。
こいつは何なんだ…。
「混乱しているようですね。あなたも筆者も。安心してください。警察は呼んでいませんし、読んでいません。」
「??????」
上手いこと言ったつもりか。
店員はもちろん、強盗犯も唖然としている。
「ふ、ふざけるなよ!撃たれたいのか!あぁ?」
怒鳴りつける強盗犯。
俄然唖然とする店員。
撃っちゃえよ、と強く思う。
しかし…
「撃つのは構いませんが、BB弾では人は殺せません」
「」
私たちは驚いた。
そうだ、この銃は偽物。
そもそも本物の銃を買える人間はコンビニ強盗などしなくても銃を売った方が幾分かマシであるし、増しであるかも知れないのだ。
「っ!くらえ!」
強盗犯はインテリな店員目掛けて乱射する。
「おぅ、おふっ、ふひぃぃ」
気持ちよさそうにするな。
「ちょっっっと痛いですね」
ちょっと痛いのか。
「しかしあなた、そろそろここから出ていった方が良いのでは?騒ぎが広まると大変ですよ?」
「……見逃すってのかよ」
「ええ、まぁ。筆者もあなたが逃げ切るのを期待していますし」
「……?」
筆者、私のことを指しているのだろうが、その単語が出てくる度に強盗犯の顔が難しくなっていく。
「ああ、しかしコンビニ袋はよろしくない。これを使いなさいな」
インテリな店員はアタッシュケースをレジの台へ置いた。
「…!なぜお前がこんなものを持っている!」
「あなたに使っていただこうと思い持ってきたのですが」
「なんだお前」
なんだお前。
何しに来た。
恐る恐るアタッシュケースにお金を入れ直す強盗犯。
2分も経たず入れ終えた。
「じゃあな。追ってくるんじゃねぇぞ」
「もちろん僕は追いません」
それを最後に強盗犯はコンビニを走り去った。
「やれやれ、やっと逃げましたか。皆さん大丈夫でしたか?」
インテリな店員は腰を抜かした3人の店員に話しかける。
3人は依然、唖然としている。
「さてさて筆者さん」
なに、話しかけてこないで。
「あのアタッシュケースにはGPSが付いています」
え。
「コンビニ強盗が逃げる物語はここまでですが、捕まえる物語も書いてみませんか?」
はい?
「僕はそのきっかけをあげたのですよ」
何こいつ。
「さぁ、どうしますか。午前4時30分にコンビニ強盗が逃げましたけど、次は何時に書き上げますか?」
ああ。
興が乗ったら書いてやるよ。
ただしお前には乗らない。
3人の店員が動き出した。
いや、蠢き出したと言うべきか。
「なっ!」
コンビニがコンビニとしての存在価値を失った時、どうなるかご存知だろうか。
お金でやり取りができない商品は瞬く間にガスを放出し、異臭を放つ。
そのガスはそのコンビニで働く者にのみ作用し、体の機能を奪い、やがてゾンビと化す。
こいつやっぱりここの店員ではなかったのか。
「そうですね。ただのインテリです」
うざい。
まぁ、もう手遅れだ。
3人のゾンビがインテリに噛み付く。
噛み砕く。
噛みちぎる。
この物語は終わりだが、もしもインテリの気持ちを汲み取る気が起きたなら、次は「ゾンビと強盗犯」という物語を作ろうか。
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