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怪物狩り
「で、なんでこんな所に俺を呼び出したわけ?」
悠々とした雰囲気で佐藤が話続ける。
「ましてやこんな路地裏、お前らしくない」
佐藤が俺の目をじっと見つめる。心の中を見つめられているようで、俺は思わず目を逸らした。
「昨日、佐藤が指定した廃ビルに向かったよ」
「お、大沢のおっさんなんか言ってたか」
「ああ、麻薬の仕入れ方、売人としての立ち振る舞いにこの世界での生き方、それに」
途中まで頷いて聞いていた佐藤も、最後の『それで』を聞いた瞬間動きを止めた。
「佐藤、お前が裏世界に蔓延る怪物だって言うことも聞いた」
俺の言葉を聞き、佐藤は煩わしそうに後頭部を激しく掻いた。
「何お前余計なこと聞いているんだよ、全く困るな」
佐藤の苛立ちにに俺の背筋は震える。何せ三日前に自分を殺そうとした相手が苛立っているんだ、もしまたナイフでも持たれたらたまったもんじゃない。
「で、それを聞いてお前は何て言われたの」
「相沢からお前を殺すように言われた」
「はっ! 相沢のおっさんらしいや、それで」
予想通り、このぐらいの言葉で佐藤は揺るがないが、だからといって俺に人は殺せない。考え抜いた言葉を口にするのに、そう時間はかからなかった。
「佐藤、逃げてくれ。俺がなんとかして大沢たちを誤魔化す。だからお前は逃げろ、それでもう二度と人を殺すな」
「は? なにそれ」
そう短く答えた後。壊れた猿のおもちゃみたいに佐藤は笑い転げた。
「何? 俺に逃げろ? まったくお前、本当に最高だな!」
至って真面目に言ったつもりだが、佐藤の心には伝わらなかった。
数分経っただろうか、佐藤が唐突に真顔になる。
「そういえば俺、お前にお土産があるんだよ」
思わず俺はみをすくめる。そんな様子を見て、不満そうに佐藤が一言。
「大丈夫だよ、凶器とかは隠し持ってない」
背中に背負っていたリュックから出てきたのは。
首上だけの舞子だった。
「お、お、い。それ、なんだよ」
「ん?舞子」
気づいた時にはもう遅く。俺は佐藤の上に馬乗りになっていた。
「お、おまえ、おまえ、舞子を殺したのか?」
「ああ、殺した。そしてお前も今殺す」
鈍い痛みが脇腹をつんざく。佐藤の右手にはポケットナイフが俺の腹を刺していた。
「ミイラ取りはミイラになるって本当、よく出来たこ、と、ば、だねっ!」
脇腹に刺さったナイフは、佐藤の声に合わせるように、俺の腹を裂いていく。意識が朦朧となっている中、必死の力で俺は舞子の生首に手を伸ばす。
「ふん、そのまま仲良く死んでろ」
佐藤の足音は雑踏の中に消えていった。
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