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勧誘
「なんで、払ったんだよ、あんなぼったくり!」
そんな俺の問いに答える素振りを見せずに、佐藤は夜風にタバコの煙を流している。
あの時の伝票。確かに三十万円と書いてあった。普通の社会を経験してきた人間なら、一瞬でぼったくり店だと見抜くはず。なのに佐藤は言われるままに三十万と言う大金を払った。
既に俺は佐藤のことを自分とは違う人間だと認識していた。
しばらく歩いていると、佐藤は廃ビルの前で足を止めた。
「お、着いたぞ」
さっきとは若干声のトーンを変えた佐藤が古びた廃ビルの前で足を止める。
「ここが俺の職場だ」
そう呟くように言うと、佐藤はズカズカと臆することなく、ビルの中に入っていった。
俺は一種の困惑と恐怖を覚えながら、佐藤について行った。
「ようこそ! 我が職場に!」
その声と同時に、部屋の中の明かりが点く。これからサーカスでも始まるかな様に、佐藤は部屋の中央で両手を大きく広げ、体で大の字を作るように立っていた。
「お前にはこれを売って、その金を稼いでもらう」
そう言い。ポケットから白い粉が入った、パケ袋を投げ渡してきた。
「ここを出て右に曲がると、小さな小屋がある。その家の奴にこれを売ってこい。それがお前の初仕事だ」
そう言うと佐藤はパケ袋を数個、俺に投げ渡してきた。それは誰がどう見ても違法な薬物の類だった。
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