狩り

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狩り

「僕が、ですか?」 「ああ、お前が一番適任だ」 「な、なんで俺が佐藤殺しのに適任なんですか!」 「よく考えてみろ」 大沢は自分の頭を人差し指で突いてみた。 「昨日、お前は佐藤に殺されかけてここにいるんんだろ? だったら俺に何か言われたとか言って近づけば良いじゃねえか」 「でも、だからって人を殺すのは」 「お前ならそう言うと思っていたよ」 俺が殺人を拒否する事を想定してたのか、大沢はズボンのポッケから、一枚の写真を渡す。 「お前がもし佐藤を殺さないんだったら、その女はお釈迦だ」 粘っこい唾液を見せながら、大沢は笑う。不快感を覚えながら、写真に目を移すと。 「え、舞子?」 大学時代から付き合っていた彼女の舞妓がそこには写っていた。 「舞妓、いい響きだねぇ、もしお前が怪物狩りを拒否したら、その女は俺らの組みで始末させてもらう」 「なんだよ、怪物狩りって! それに舞子は」 興奮する俺を大沢は何故か少し驚きながら、片手で制する。 「なんだお前、怪物狩りの事知らないのか?」 「ああ、知らない。だから教えてくれ、怪物狩りのこと、舞子の事」 「ふん、時間はないがそこまで知らないなら教えてやる」 大沢は荒く椅子に座り直すと、一つ息を吐きながら喋り始めた。 「俺らが怪物狩りを始めたのは、今から二年ぐらい前だ。丁度その頃、対立組織との抗争が激しくなってきてな影響で、俺らの組にコソ泥が入って来たわけよ」 「コソ泥って、事務所に泥棒とか入ったのか?」 俺のその問いに、大沢は手を激しく横に振りながら、苦笑した。 「そんな甘ったれたもんじゃねえよ。組織に潜ってその親分の首を取る。いわゆる殺し屋ていう連中のことさ」 「それが、人に渡るにつれ怪物と呼ばれた」 俺の相槌が当てはまったのか、相沢は少し驚いた顔を見せた。 「勘が鋭いな、その通り。怪物は俺らの組織に蔓延る殺し屋の事だ、がしかし最近になって組織に都合が悪い人間もそう呼ぶようになった。元々佐藤はうち専属の怪物だったんだけど、最近あいつ調子乗り初めてな」 「と、言いますと」 気がついたら俺は、相沢の話に魅了されていた。もちろん舞子の事は心配だったが、それよりも佐藤を殺さなければいけない理由を知りたかった。 「あいつが単独で麻薬の売人を雇うようになった。本来俺らに許可を取るような事を、あいつは一人でやったんだ」 怒りを抑えてなのか、相沢の頬は赤く染め上がっていた。 「そこで今回のお前の騒動だ、本当ならあいつに唆されたお前も殺すはずだったんだがな」 表情を変えず、大沢は手を頭の後頭部に持っていった。昨日と今日で二つも命を失いかけた事実に俺は激しい嫌悪感を覚えた。 「で、佐藤のこと殺るのかい? もし殺すんだったら今ここで決めくれ、俺らにも準備がある」 「やります。佐藤は俺に殺させてください」 考える暇も無く俺は禁断の単語を口にした。この国で殺人をした時の罰は覚悟の上だったし、何より舞子を守る為でもあった。
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