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別れ
廃ビルを後にした俺は、すぐそこにあるコンビニエンスストアに駆け込んだ。そこで一本の缶コーヒーを買い、今は駐車場に腰を降ろしている。
思えばここ二日間、非日常な体験しかしていない気がする。
ぼったくりバーで凄まれたり、目の前で人を殺されたり、暴力団の事務所で親分と対話もしたっけ。
とにかく俺の脳はこの二日間で疲れきっていた。
「佐藤のやつ、どうしようかな」
そう小さく呟いた。あんなにヤクザのボスに頼まれたって、俺は人を殺せない。
必死に考え抜いた結果、俺の考えは纏まった。後は大切な人に連絡を済ませるだけ。
俺はスマホを手に取る。何十、何百回と電話をかけたその番号も今日でお別れかもしれない。
「もしもし、舞子?」
「ん、裕くん、何いきなり」
「お前に伝えたい事があってさ」
「え、なに?」
「俺、お前と会えて本当に幸せだった。幸せになれよ」
「は? 裕くんどうし」
舞子の最後に言葉を聞かず、俺は電話を切った。あまり長く話したら舞子を危険に晒してしまうかも知れないからである。
「よし、やるか」
決意を新たに、俺は大股で家に向かった。
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