王者、降臨せし

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そのドラゴンは以降人間にも村にも何をするでもなかったが、村の者はその存在が村を変革することを恐れた。 ドラゴンは異形の姿と王者としての圧倒的存在感から、魔王の本性とされることがよくある…魔王が倒されそうになるとドラゴンに変身するアレだ。 また、豊富な知性や長い時間を過ごした経験から竜神として崇められることもある…こちらは通常は人型で人間との会話や交流も積極的に行う穏やかな存在だ。 どっちにせよ、人間たちはそのドラゴンに対して何もしないわけにはいかなかった。 不義から怒りを買えば、村ごと人を焼き尽くされ…打ちとけて仲良くなれば恩恵が得られるだろう。 それが出来なければ、畑を捨てて長い旅に出るしかない。 ドラゴンと交渉した者など、普通の人間の中にいるはすがない…そもそも気高い生き物であるドラゴンが普通の人間の話をやすやす聞くとは思えない。 それで、満場一致で村の者はドラゴンの討伐を冒険者に託すことにした。 もっとも、それが良い卦になると村の者は思ってはいたんだろう。 しかし、そんなに甘くはないのだ。 ドラゴンの討伐が始まって半年…冒険者がドラゴンの討伐をしたという話は聞かない。 されど冒険者は冒険者を呼び、村には依頼外も含めて20組の冒険者がドラゴン討伐の物見遊山すら集まっていた。 その集まりの中で諦める者、諦めきれない者、様々な冒険者が不満を抱えてなお拠点たるこの村でドラゴン討伐という名誉を求めてしのぎを削っている。 金欲しさというよりもドラゴンとなるともはや、ひとつの依頼ではなくなっていた。 ドラゴンもまた、その空気を地下で感じ取っているのだろう。 「ド、ドラゴンが洞窟から出ようとしているぞ!!」 偵察に出かけていたある冒険者からの報告により、ドラゴンが半年ぶりに地上に顔を出す姿が確認された。 迎え討とうにせよ、逃がしてはならないにせよ…壮大な狩りの一夜が幕を開けた。
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