青天の霹靂

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青天の霹靂

 目が覚めると天井が広がっていた。俺が知っている部屋の白い天井ではなく、コンクリートでできているようだった。  上半身を起こそうとすると、俺は体のあちこちにコードが繋がれているのに気づいた。鼻の穴にも違和感があり、どうやらチューブを通されているようだ。そこで初めて俺は病院のベッドで寝ていたのだなとわかった。  しかし、病院に運ばれる覚えなど俺には全くなかった。だが、現に体は絶好調ではない。筋肉が衰えているのが自分でもわかるのだ。 「目を覚まされましたか」  突然、声がした。首だけを左に向けると、頭から変な触覚を二本生した女と思われる生物がそこに立っていた。 「あなたは、誰ですか」  俺は不審に思いながら聞いた。 「私は、ここの病院の看護師みたいなものです」 「みたいな?」 「はい。説明すると長くなります」  女は流暢に喋る。頭の触覚はコスプレかなにかなのか。 「それより坂井さん覚えていますか?」 「覚えてるって、なにをですか?」 「自分の身に、何が起きたのか」  女に言われ、俺は目を瞑り記憶を探ってみる。しかし。 「いいえ、思い出せません」  名前や自分が通っている学校名、家族構成などははっきりしているのだ。 「やはりそうですか。頭を強く打ったので、軽い記憶障害になってるのかもしれません」 「あの、俺になにがあったんですか?」  女の深刻そうな表情に俺は少し不安になった。 「あなたは、高校の文化祭で漫才をしている時、上からスポットライトが落ちてきて、それが坂井さんの頭に直撃し、意識不明の重体になったのですよ」  そうきいて、俺の脳内で散りばめられていたピースが繋がっていく感じがした。やがて全て思い出し、俺の頭の中では大切な人の顔が浮かんでいた。なぜ、今まで忘れていたのか。俺は自分を憎んだ。 「舞は!? 舞はどうなったんです!?」  舞は俺の彼女だった。そして、高校の文化祭で一緒に漫才をしていた。 「舞さんは……もう……」  女は俯き加減で答える。 「うそだろ?」  俺は全身から残された力が全て抜き取られた感覚になった。もうこのまま死んでしまっても構わないと思った。 「舞の頭にも直撃したんですか?」  灰色の天井を見ながら呟くように聞いた。すると女は。 「違うんです。坂井さん、よく聞いてください」 「え?」 「坂井さん、あなたは80年もの間、眠っていたのです」 「ええええええええええ!? 80年も!?」  どっから声が出たのか自分でも分からない。漫才ではツッコミ役で、その際にはいつも声が裏がっていた。それが今ここで出てしまっている。 「え、80年!? え、てことは俺は今98歳?」 「その通りです」  そういって女はどっからともなく手鏡を取り出し、俺の顔の前まで持ってきた。 「見えへんなぁ〜」  正直な感想だった。 「あ、それでなんかここ病院とはちょっと違うんか。他の患者さんおらんし、天井コンクリートやし」 「本当はもっと設備の整ってる病院で治療を続けたかったのですが、坂井さんが眠ってる間に色々ありすぎてしまって」 「色々って?」 「説明すると長くなるのですが」 「構いません。教えてください」  女は一呼吸置いた。それほどの事態が起きたのだろう。大地震か、いや、まさか戦争勃発か。俺は様々な想像を巡らせた。 「2018年、坂井さんは漫才の最中にスポットライトが落ちてきて意識不明の重体になりました。そして2019年、坂井さんが植物状態の時に世界は豹変しました。アメリカから人口ウイルスが蔓延し、日本、いや世界はゾンビだらけになりました」 「ええええええええええ!? ぞ、ゾンビ!?」 「坂井さんの彼女さん、舞さんはあなたを護りながらも、必死にゾンビ化した世界を生き抜きました。仲間を見つけ、グループを結成し、物資を取りに行ったり、時には他のグループと殺し合いもしました。そして、2034年、世界がゾンビ化して15年が経ったころ、舞さんの仲間の1人である研究者はゾンビを駆逐できるウイルスの開発に成功しました。世界は平和を取り戻しました。しかし、ゾンビはいなくなったものの、世界は荒れ、人口が減り、人類滅亡の危機はまだ残っていました。これからどう生きていけばいいのか、全員が頭を悩ませている時に新たな青天の霹靂が訪れました。舞さんとその仲間たちは異世界召喚されたのです」 「ええええええええええ!? い、異世界召喚!?」 「召喚されたのは舞さんと植物状態の坂井さんを含め6人でした。舞さん達は、舞さん達を召喚した本人である王と話をしました。王は言いました。この世界の魔王を討伐してくれたら、元の世界に返し、さらにその世界の再構築を手伝おう、そう言いました。そこで王の息子である勇者が仲間に加わり、6人で魔王討伐の旅に出ました。坂井さんはずっと城で眠っていました。舞さん達はそこで新たな出会いと別れを繰り返し、レベルアップを重ねました。そして2040年、異世界召喚されて6年、舞さんは坂井さんとではなく、勇者と結婚をし、子供を授かりました」 「ええええええええええ!? 俺捨てられたん!?」 「2040年、舞さんが子供を産んだ年、ついに魔王城に到達しました。しかし、全員死んでしまいました」 「ええええええええええ!? 呆気なさすぎひん!?」 「勇者と舞さんにできた1人の女の子。その子の名はアリサ。2055年、アリサは両親の仇を取ろうと、仲間を集め魔王討伐の旅にでました。2060年、何が起きたのかアリサと魔王は結婚して、子供を授かりました」 「ええええええええええ!? どういう展開!?」 「魔王とアリサとその子供は世界から逃げるように、現在の地球に転移しました。地球はあの時のままで、荒廃していました。そして、地球に転移したその日、遠い惑星から宇宙人が侵略してきました」 「ええええええええええ!? まだ続くん!?」 「2060年に宇宙人との戦争が始まりました。相手は大勢いるのに対して、こちら側は魔王、アリサ、子供はまだ小さかったので2人しかいませんでした。魔王とアリサは呆気なく殺されてしまいました。しかし、子供は宇宙人の手によって育てられました。子供の名前はユピラ。元気な男の子でした。頭には異世界の住民の特徴である触覚が生えていて超能力が使えました。そして2075年、賢かったユピラはタイムマシンを開発させ、偶然にも2018年の坂井さんの文化祭に訪れることになりました」 「ええええええええええ!? 来てたん!?」 「ユピラは超能力をあやまって使ってしまい、舞台の上のスポットライトを落としてしまいました」 「ええええええええええ!? 犯人お前やったん!?」 「ユピラは焦って元の世界に戻りました。タイムマシンを壊し、2078年に宇宙人と結婚し、子供を授かりました。それが、私たちです。ちなみに坂井さんは私たちが生まれた後、異世界から地球に転移され道に捨てられていました」 「ええええええええええ!? 逃げたん!? てか君そいつの子供なん!? だから触覚!? あと俺の扱い雑すぎるやろ」 「そして20年が経ち、現在2098年。坂井さんは目覚めました」 「いや、眠ってて良かったわ」  俺は強くそう思った。
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