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「まあ、これは俺が『素直に』動けばの話だ。」
「………?」
何かその言い方に引っかかる。
「上からの通達は『怪盗の捕獲』。
だけど俺が考えてるのは……『怪盗との対話』だ。」
対話。
曲がりなりにも対極の立場である彼らと話し合おうと、椎名は考えていた。
「まず冷静に考えて、君達は組織の情報を得ようとする手段は限られて来るはずだ。
聞こうとしても逃げられる。捕まえようとしても素直にいう事を聞いてくる奴ではない、とかね。」
「………確かに。」
「それに比べて、怪盗……その主犯格。
彼のプレイヤーに対する処置なんだけどね……ジュエルの略奪もそうだけど、ベルトの処置がどれも『的確に』壊されてるんだよね。2度と変身できない様にする細工とも取れる。これ、どういう事か分かる?」
「ーーー構造が分かってる、元々、組織の人間……って事なのか?」
怪盗について、新たな可能性が芽生えて来る。
「そう。その可能性が浮上してくる。
つまり、向こうは君達の情報は勿論、組織についての情報も少なからず持ってる事になる。」
「じゃあ、アンタや、もしかして勇騎さんの狙いは……」
「お察しの通り。この話は互いにメリットがある。条件を飲んでくれて今も動いてくれている。ありがたい事にね。」
勇騎が警察……というより、椎名 祐希という刑事に協力した理由が分かった気がした。
「ただ、正直彼らの足取りが掴めないのが現状でね、いつもの活動と平行線で、見つけ次第取り掛かると言ったところだよ。」
「………でもそれ、下手したらアンタが裏切り者認定とかされるんじゃないのか?」
捕まえる気はないと知られたら更に面倒な事になるのでは、と思い口に出す耶俥
「元々、ジュエル関連の事件はこっちから首を突っ込んでるようなものだったからね、今更やる事は変わらないし、もしされたらその時考えるさ。今この世界は、常識に囚われて捜査してもどん詰まりなのは分かりきってるしね。」
短くなった煙草を携帯灰皿に仕舞い込む。
「さて………改めてお願いするよ。
篠原君。君の言った通り、この子はきっと望まれない形でジュエルの件に巻き込まれてしまった。
だけど、俺や勇騎君は別の件で中々動けずにいる。でも出来る限り手助けできるよう努力する。
『ぶん殴りたい連中』に変わって、君達が救ってあげてほしい。よろしく頼む。」
さっきの輝の皮肉を引っ提げ、椎名は頭を下げる。
「………勿論だ!やる事は変わんねえよ!!なあやっくん!!」
「………………。」
「なんか言って!!??」
「いや、何言っても結局変わんねえよなとか思ってただけだよ。
まあ、目覚めが悪くなるのはゴメンだからな。」
「全く素直じゃねえんだからよ〜〜」
「………ふふ、若いってのはいいねぇ。真由美さん。」
小さな声で、誰かの事を椎名は想った。
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