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この世は目に見えない毒液が飛び交っているようだ。
質の悪いこと夥しい。
お陰で工場閉鎖、失業、お金がない。
少しの足しにと思って青年は畦道の脇で土筆を摘んでいた。
春の朝日を浴びて杉菜についたミクロサイズの水玉は透き通るように輝き、土筆に滴る露は金箔のようにきらきら光る。
それを見つめるだけで青年の心は紺碧の空のように晴れて来る。
猶も一心に見つめる青年。
散歩する犬の小便と疑うともなくマスクするともなく・・・
そこへピカピカの高級車が通りかかった。
「邪魔だ!お前なんかコロナで死ね!」
木石漢は無情にも怒鳴って鉄の塊と共に去って行った。
後に残された青年の心は排気ガスで満たされたように荒廃した。
それでも目から珠玉の涙を流す青年。
ふと顔を上げると、田んぼの向こうに生い茂る紫雲英の群落が目に飛び込んで来た。
青年は一気に活気づき、そよ風に棚引く紫雲を連想してうっとりと眺め入った。
すると、青年は心の中が光で満たされ、誰よりもリッチマンになった。
こんな経験を先のドライバーは一生味わえまい。
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