君のないしょ

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 妻は僕をすっかりパン派だと勘違いしている。毎朝、トースト、サラダ、スクランブルエッグ。美味でございます。それは分かる。妻の料理はやはり美味しい。こんがり黄金色のトーストも、口のなかでフワフワ消えるスクランブルエッグも、歯ごたえのある野菜のサラダも大好きだ。  だが、もう限界。それが毎朝続くと、僕の中の日本人が米を求めて暴動を起こしている。しかも、どうやら僕は妻にグルテンアピールをし過ぎたらしい。独身時代のデートは高級イタリアン、洋食ビュッフェ。ついスマートに米以外の物を歓迎し過ぎた。カムバック、ライス。素直で従順な妻は僕のことをグルテン大好き人間と思っているに違いない。今頃になって、独身時代の調子乗っていた自分を殴りたい。説教してやりたい。朝はパン地獄を味わう羽目になるぞと言ってやりたい。  そんないきさつを経て、僕は今日こそ秘密を打ち明けようとしている。夜のリビング。妻の手作りディナーを食べ終え、向い合って茶を飲むゆっくりとした時間。言うなら今しかない。  「実は米派なんだ」  その一言。なぜ出ない。言い出せずに既に1時間が経過。
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