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北千住の小さな家
ようやく寒さが緩みはじめた二月下旬。僕と兄さんは、北千住駅から徒歩十五分の住宅地にある小さな建売住宅の前にいた。
「お前を連れて飛び出したきりだから……五年ぶりか」
「うん」
そのこぢんまりとした一軒屋は、地元にある昔馴染の不動産屋にメンテナンスを依頼しているおかげで、いつでも入居者を迎えられる程度には清掃が行き届いている。ただ、今は賃貸の募集はかけておらず、五年ものあいだ空き家の状態が続いていた。もっとも、たとえ入居者を募ったところで、他の訳あり物件と同様、ポルターガイストを始めとした謎の怪異によってすぐに逃げられてしまっただろう。というわけで、いずれは除霊を必要とする物件ではあったのだけど。
ただ、そこは僕と兄さんにとっては特別な場所で。
そこに住まう幽霊もまた特別だった。
「元気にしてる……って言い方は変だよな。二人とも死んでるんだから」
「うん……」
「やれるか」
その問いに、僕は無言のまま小さく頷く。
てっきり専門の霊媒師にでも頼んで祓っていたのかと思っていた。祓えば賃貸に出せるし、収支的にはその方が好都合だったはずだ。
それでも兄さんは、この家を除霊せずに当時のまま残していた。
そして今回、兄さんは僕にその除霊を任せた。きっとそれは、とても意味のあることで。
「大丈夫だよ」
そして僕は、懐かしの我が家へと足を踏み出す。かつて僕が、寂しさからこの世界に引き留めてしまった父さんと母さんに、もう大丈夫だと、兄さんと二人でやっていけるから大丈夫だと告げるのだ。
さよなら、と。
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