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まぁわかっていたことだ。
どうせみんな制服で来るだろうと言われた時点で俺はアウェーだと。
次の日のお昼過ぎ、支度を整えて車に乗り、辿り着いたのは高級そうなホテルだった。
その宴会場に向かう最中も視線が鬱陶しかった。
父が会場入りすれば、やはり皆がチラチラとこちらを伺うのがわかる。わかりやす過ぎる。
他の同年代くらいの子供らも制服だ。
なぜ制服か。
そんなこと決まってる。
だって今日は自慢大会だから。
「やっぱ俺浮いてるじゃん・・・」
第一にこういうのは跡継ぎの長男が行くもの。
三男の、しかも養子となれば浮くのは当然だ。
それは父もわかっているはずなのに。
堂々と歩く父の背に文句言うが聞いちゃいない。
今日の朝から父の機嫌はすこぶる良かった。
怪訝な周囲の反応もなんのその。
意気揚々と会場内を進んでいく。
雰囲気に負けないように自分も胸を張って歩いてはいるがその胸中は乱れまくっている。
あぁテレビや新聞で見たことある人たちばかりだ。
この中で俺は何を自慢するというのか。
とりあえず何としても父の威厳は守らねば。
「おっ、坂崎さんだ。」
父が急に足先の向きを変えたので、自分も急いで向きを変える。
はて、坂崎、聞いたことがあるような。
何かしら始まるまでまだ時間はあるらしく、
息子らを引き連れて皆、談笑していたのでこの行動に訝しむ者はいない。
あ、思い出した坂崎。
社会に疎い俺でもわかる。
確か園ヶ原グループの中でも1、2を争う大企業。「坂崎建設」。
いきなり来たか。
とりあえず父の出方を見よう。
「お久しぶりです。眞鍋です。」
綺麗なお辞儀で相手にファーストコンタクト。
俺もそれに習う。
「ん?あぁ!眞鍋さん!」
向こうも気づいて手を上げる。
父よりは少し若そうで背も高い。
それにハーフを思わせるような顔立ちをしている。
モデルみたいだ。
「この間ぶりですか?お元気そうで何よりです。今日はいつもよりお顔が華やかですね。何か良いことでも?」
「そうですかね?いつも通りですよー。おや、そちらは息子さんの伯人くんだね。大きくなって。」
父に伯人と呼ばれた人物はその後ろにいた。
父親に似てこちらもハーフのようなキレイな顔とブロンドがかった髪をしている。
一気に別世界に来た気分だ。
早速帰りたい。
「はい、坂崎伯人と申します。お陰さまで来年は高等部に上がる予定です。眞鍋雪次さん、父からいつも伺っております。」
坂崎伯人は坂崎父の隣に立ちゆっくり礼をする。
所作まで美しい。
小さいのによく通る声だ。
「・・・で、眞鍋くん。」
と、坂崎父が急に砕けた感じで父ににじり寄る。
「その子が「例」の・・・?」
バチっと坂崎父の目とかち合う。
やはりバレていたか。
兄が来ないのは周知の事実であまり驚きはないように見える。
「あ、お初にお目にかかります、眞鍋三春と申します。父がいつもお世話になっております。」
きっちり礼をすると坂崎父は目を丸くして、父は満足気に頷いた。
「そうそう。僕の三男。どう?可愛いだろう。」
ずいっとニコニコ顔の父に前に押される。
ほんっっっとに止めてほしい。
坂崎父にも坂崎伯人にもすごい見られている。
こんな普通の公立中学の制服!
着てくるんじゃなかった!
と言うのも坂崎伯人の制服は超お金持ちしか入れないと言われる中・高一貫の「私立アカシア学園」のやつなのだ!!
周りを見てもその制服ばかり。
だから俺が浮く。
胸ポケットの金色に刺繍された校章が眩しい。
「大丈夫なのか?」
坂崎父の言葉に肩が一度震える。
最もな反応だ。
俺だってそう思う。
このご時世なにがあって影響されるかわかつたものではない。
明らかに「眞鍋不動」として俺は危険因子だ。
それでも父は笑顔のまま。
その手に何人もの人生を握っているはずなのに。
「大丈夫だよ。こんなことで揺らいだりしない。その為に来たんだから。」
「いやしかし・・・」
と、食い下がる坂崎父だったが思わぬ声に掻き消される。
「おや、見たことない制服ですね。」
坂崎伯人が嫌なとこに触れてきた。
俺がなんかやばい顔してて
話題を逸らしてくれたのかもしれないが痛いとこついてくるな。
けど、きっと誰と話してもその話題になりそうだ。
ここで挫けてはいけない。
「独自に研究したいことがあって専門的な学校に通っていたので。専門的な学校とはなかなか知名度が低いものですね。」
ハハハと乾いた笑いが出る。
別に嘘はついていない。
植物好きな先生が薬草のようなものを育てていた。
俺もちょっと興味あって一緒に育ててた。
嘘じゃない。嘘じゃない。
しかし学校名を聞かれたらアウトだ。
父の顔は見れない。
ドキドキしながら坂崎伯人の顔を見れば
坂崎伯人は何やら目を輝かせて頷いていた。
「そうなんですか。熱心なことで素晴らしいですね。僕は特に理由もなく入学したものですから、夢中になれるものがあって羨ましいです。」
杞憂だったようだ。
ちょっと罪悪感。
すごい信じてくれた上に誉めてくれた。
お世辞でもうれしい。
いい人だ。
人の足を引っ張ることしか考えてない人達ばかりかと思っていたので嬉しい。
思わず顔が綻んでしまう。
「ありがとうございます。」
・・・数秒、間があった。
何故か坂崎伯人含め坂崎父もピタッと静止してしまった。
ん?なんだ?まずいことした?
父を見ればちょっと複雑な顔をしている。
やばい。
何かミスったんだ。
どうしようかと、キョロキョロしていれば助け船が。
「あっそうだ、今回の主賓に挨拶しないと!じゃあまた!」
父はそう言って俺の腕を掴んで無理矢理その場から離れた。
残された二人の返事も聞かず。
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