編入前の話

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普段からあまり父の前で動じることのない三春だが今回ばかりは驚きすぎて口が閉まらない。 頭の上でハテナが踊る。 父のそんな誘いは初めてだった。 会社とか関係なく普通に暮らしてほしいというのが父の願いではなかったか。 「畏まる必要はない。園ヶ原が息子を紹介するのも兼ねての会だ。君と同じような年代の子が沢山来るだろう。息子同士で親睦を深めるためにね。」 と父は嬉々として話すが 三春の心境や穏やかではない。 「何故俺なんですか?兄たちがいるじゃないですか。」 ブルブルと三春は首を降る。 あり得ない。 「あの子たちはまだ帰ってこないよ。向こうの大学での課題で忙しいようだ。・・・三春は僕の息子として出席するのは嫌かい?」 雪次が悲しげに眉を下げる。 「そうじゃない。違います。けど、無理ですよ、そんな。」 三春が社交界から遠ざけられているのは 何も雪次がそう望んでいないからという理由だけでもない。 それは単純で、明解だ。 「三男で養子」。 世襲制が多いこの社会でそれがどれほど異質なものか。 自分が周りからどう見られているか、三春はよくわかっているのだ。 だから、傷付けたくない。 自分の存在のせいで。 それは、覚悟を持って養子にした雪次も同じだったはず。 世間の醜聞から守りたいと。 「三春、僕は君を紹介したいんだよ。とても良くできた息子だって。」 その言葉で三春は目の奥が熱くなる。 余計に嫌だ。 なぜ、今になってそんなことを。 「父さん。俺はあなたの息子であることに誇りを持っているし、努力もしてる。でも、俺は父さんの」 邪魔にしかならない。 言いかけた言葉は飲み込んだ。 こんなこと言ってはいけない。 父がそう思っていないのはわかってるから。 暗く沈む三春に対し雪次はそれほど気にしてはいないようで落ち着いた雰囲気のまま 椅子から立ち上がると三春の前に立つ。 「三春、僕はいい加減腹が立っている。」 そんな風には見えないが。 頭1つ分くらい高い父の顔を見上げる三春の目が不安そうに揺れていた。 とても綺麗な瞳をしている。 何も知らない子供のような。 「君を養子に迎えてから今の今まで周りに何を言われようと君は僕の大事な息子だ。そう、言い続けていたが、」 真剣な父の眼差しに ごくりと三春の喉が鳴る。 「もう我慢の限界だ。」 頭が真っ白になる。 やはり、自分は、、 と、俯きかけた三春の肩を雪次はガシリと掴む。 「愛想笑いしながら君を語るのはもういい。」 ガラリと父の纏う空気が変わるのを三春は肌で感じ取った。 一度ヤンチャして大ケガした時も父はこんな空気をしていた。 思い返しながら三春が身震いするも雪次は気づいていないようだ。 「君に関して何を言おうと伝わらないんだ。誰もまともに聞こうともせず君の悪い所しか言わない。嫌味ばかりだ。僕はいい。けれど実際ありもしない君の悪口ばかりを聞くのはもう限界なんだ。こんなにも君は素晴らしい人間だと言うのに。だから僕は今回の祝賀パーティーがチャンスだと思った。どうせ皆が皆子供自慢大会になるんだよ!だったら!」 父の熱に三春は少し引く。 なんというかシリアスな感じじゃなかった? 「三春!」 ガクガクと体を揺さぶられる。 もういっそ恐いんだけど。どうしたと言うのか。 三春は父の突然の興奮状態についていけずに目を回す。 「なっなに!?」 三春は知らないのだ。 これまで雪次が溜めてきた思いの丈を。 「僕は君を自慢したくて堪らない。」 むちゃくちゃいい笑顔だった。 四十過ぎなことも忘れるくらい、楽しいことを見つけた少年のような笑顔だった。 そんな父の顔に三春は いつかの母の言葉を今になって思い出す。 「え?兄たちとはあまり関わらないのにどうして自分にばかり構うのかだって?ん~たぶんね~兄さん達は小さいときから一人で何でも出来てね、反抗期とか思春期もあったっけくらい大人しかったから。対して三春は不器用で反抗ばっかりするじゃない?それが堪らなく可愛いのよ、きっと。」 心から可笑しそうに笑う母に頭をくしゃくしゃにされながら、誉められたのか貶されたのか微妙な気持ちになりながらも、嬉しかったのを覚えている。 母のことで、ぼーっとした頭で考えた。 これは自分にもチャンスなのかもしれない。 正直、父の言葉も顔には出さないけどすごく嬉しかったのだ。 胸が温かい。 父が喜ぶなら、必要としてくれるなら不安しかないけど行ってもいいかなと思えた。
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