編入前の話

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今回の主賓。 それはもちろん天下の「園ヶ原」。 最近は薬品研究にも力を入れているらしい。 どの事業も順風満帆で まさに大富豪。 そんな園ヶ原グループの園ヶ原英志(そのがはらえいし)には一人息子がいる。 「こちらが我が愚息、「園ヶ原明志(そのがはらめいし)」であります。」 自分の息子に大衆の面前で愚息とは・・・なかなかに厳しいんだな。 まぁ見た目がライオンぽいし、子供を崖から落とすタイプだ。 一時間程あった新事業の祝賀が終わり、今はステージの上で次期跡継ぎとなる息子の紹介を特に興味もなく眺めている。 次期とは言っても園ヶ原英志も全然若そうだしだいぶ先の話なんだろうけど。 愚息とは言いつつも紹介したいくらいには出来た息子なんだろな。 ステージから離れているからか、最近勉強ばかりで視力が落ちているせいなのか息子の容姿はハッキリと見えなかった。 背は高そうである。 歳上なんだろうな。佇まいも堂々としているし体格も全然違う。 おう、やっぱり制服は「アカシア学園」だ。 もう一種のブランドみたいなものか。 大富豪の登竜門。 履歴でこの名があるだけでポイント高いみたいな。 いや御曹司は履歴書なんて書かないじゃん。 そもそもすでに就職先決まってるという。 で俺は何を見にきたんだっけ。 と、ちょっと飽きてきたので何気なく横を見れば、いつの間にか父がいた空間に穴が空いていることに今更気づいた。 え!? どこ行った!? こんな場所で置いていかれたの!? 動揺しまくりだが顔に出すわけにもいかず、 誰かに聞くわけにもいかない。 俺がボケッとしてたから何か聞き逃したのかも。 人の話はちゃんと聞きなさいと、あれほど教えてもらったのに。 どうしよ、うろうろしていては目立つし動けない。 どうする!俺! と、脳内会議を始めようかと言うところで肩を掴まれた。 わりと強めに。 あぁ嫌だな。なんとく振り返りたくない。 俺の第六感が言っている。 無視をしろ、と。 「ちょっとちょっと君、眞鍋三男だろ。」 名指しされては仕方ない。 顔を引き締めて振り向く。 後ろにいたのは小柄な、例の制服を来た少年だった。 横にいる小太りな男性とつり目がお揃いだ。親子だろう。 「確かに眞鍋三春ともうしますが・・・申し訳ありません。どちら様でしょうか。」 人を見下したような顔が頭にくるが誰かわからない以上なにも言えない。 父さんに迷惑がかかる。 ていうか全然知らないな。誰だ。 そしていい加減手を離してほしい。 「知らないの?嘘でしょ?眞鍋くらいの「大」企業の息子が父さまのことも知らない??そんな教育も受けてないの?それとも受けさせてもらえないの?」 なんだこいつ。 むちゃくちゃ挑発してくるな。 本当に目が不快だ。 そしてまじで誰だ。 「義彦(よしひこ)、ダメだよそんな風に言っては。(可哀想な子なんだから)。」 この距離で小声で言う必要ある? 聞こえてるよ。 息子も息子なら親も親だな。 せめて社会人なら自己紹介くらいしろ。 「あの・・・僕に何かご用ですか?それとも父ですか?あいにく今は席をはずして・・・」 とっととどこか行ってほしい。 高めの声も耳障りだ。 周りの騒がしさも。 頭がクラクラする。 そんな中、遠くの方で聞こえる園ヶ原息子の演説する声が丁度よく低くて少し落ち着く。 やっぱすごいなと思う。そんなに歳もかわらないのに、こんな大勢の前で。 対し、俺は何をやっているのだろう。 「え~まさか置いてかれたの?あー結局やっぱりそういう待遇なんだ「養子」って。父親も父親だよね、可哀想だよ。こんなとこ連れてきちゃ・・・明らかに君、浮いているし。あぁ、そうか・・・話のタネになるから?」 ゲスな笑みだ。 ダメだな話が通じない。 端から意志疎通させようともしてない。 どうしようか。 ある程度敵視はされるとわかってはいたが、まさかここまでおおっぴらに言ってくる輩がいるとは。 父の住む世界はこういう所なんだな。 身に染みて感じながら何となく父の言葉を思い出していた。 『三春を紹介したいんだよ。とても良くできた息子だって。』 ・・・父さん、やっぱり俺には無理だ。 ごめん。 今だに肩を掴む、奴の手をゆっくり振り払う。 演説が終わったのかパチパチと大きな会場に拍手が響く。 周りの大人は「やっぱりしっかりしてるなぁ」「さすが園ヶ原だ」「次世代も安泰だ」なんて、言いながら讃えている。 あぁ俺はこの世界でなんてちっぽけな人間なんだろう。 「何?正統な血筋でもないくせに、正統な跡継ぎである僕に何か言えるわけ?ねぇ、一般人。養子にわざわざするんだからさぞかし優れた人間なのかと思えば全然大したことないね!普通なら気付くもの。そんな無名の制服を着てこの場に立つことがどれだけ異常か。君の父親も異常だよ。」 演説から視線を外した人々がちらほら俺たちを遠目に見ているが そんなことはもうどうでもいい。 そうだな、許せないんだ。 小柄な男の目が憎悪で染まっている。 特別、俺が何かしたわけではない。 ただ、 自分より劣っているはずの人間が上にいるのが堪らなく嫌なんだろう。 そんな思いは無駄だと言うのに。 安心するといい。 俺はそこまで立派な人間じゃない。 「大丈夫ですよ。僕は誰かの上に立てるような人間ではないですから。あなたの言う通り、この場所にいる誰よりも僕はずっと下にいるんでしょう。」 わかっている。 戸籍で変わろうとも変えられないものがある。 けれど揺るがないものもある。 「何なの急に。ま、認めるならいいけど。眞鍋が・・・」 「ですが、どこの誰か存じ上げないあなた方より、父は、「眞鍋不動」はずっと、ずーっとその上にいることを忘れないでもらいたい。越えることもできないでしょう。それはご自身が一番よく分かっているのでは?だから父のいない時に私に声をかけたのでしょう。私が父の唯一の「欠点」であるから。俺をつつけばボロが出るとでも?生憎だか眞鍋はそんなことでは揺らがない。揺るがないから父は、俺を養子にしたんだよ。」 もはや誰に言っているのかもわからない。 途中から自分に言い聞かせているみたいだ。 イカれた親子は呆気にとられている。 そうだ。 眞鍋雪次という男は、お前たちなんかがバカにしていい人ではない。 あの人がどれだけ人脈という太いパイプを有しているか知らないのだろうか。 だとしたら愚かだ。 喧嘩を売る相手を間違えている。 なぜ親会社である「朝ノ丘」からではなく「眞鍋」がこの「園ヶ原」に出席しているのか考えなかったのか。 嘲るようにくすりと、妖しく瞳を細めながら笑えば 名も知らぬ親子はゆで上がったタコのように真っ赤になって バカ息子が再び俺の肩を掴もうとしてきた。 地味に痛いんだよな。 と、避けようとしたが その手が俺に届くことはなかった。 遮られたのだ。 出会った頃と何も変わらないその大きな背中に。 「父さん。」 昔、2番目の兄が誇らしげに言っていたのだ。 「三春、覚えておくといい。眞鍋雪次という人は「園ヶ原」と「朝ノ丘」を繋ぐ、ひとつの「結び目」なんだよ。」 と。
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