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結婚をして、三ヶ月ほど。
ほんの小さな事に、真友子は「夫婦」を実感することがある。
式を挙げ、籍を入れた去年の秋。
それを前に半年あまりの同棲をしていたし、職場では旧姓のままで仕事をすると決めていた。
だから、正直なところ結婚生活には、あまり新鮮さを予想してはいなかった。
だが、実際に名前が変わり、何気ない会話の中でも今まで「彼」と称していた大祐のことを「旦那」や「主人」と呼び、常時、左の薬指には指輪が光っている。
些細ではあっても、こんな変化に最初のひと月くらいは、こそばゆいような 違和感が消えなかった。
しかし、そんな違和感も程なく迎えた多忙期に霧散し、 残業の嵐から解放された時には、年末ぎりぎり。
そして、嫁として妻として初めての新年を無事に迎え、正月気分も終わる頃 には、慣れないが故の違和感は消えていた。
お陰で、「恋人」ではなく「夫婦」という実感が、色んな事を通して感じら れる。
そして、それを実感する一つが、大祐の寝言。
しかも彼の寝言は、驚く程はっきりしている事が多い。
それを最初に聞いたのは、まだ結婚前の夏のこと。
「僕は、トンボに敵わない」
偶然、目が覚めた時に隣から飛んできたこの言葉に、真友子は思わず聞き返してしまった。
だが、当然ながら会話が続くわけもなく、彼は寝返りを打って静かに眠り 続ける。
そして先日は、少し疲れてもいたのだろう。
入浴を終えて真友子が寝室に入っていくと、大祐は静かな寝息を立てていた。
だから起こさないように、そっと隣に滑り込んだタイミングで、彼の声が 感情たっぷりに言う。
「Oh,no! チーズケーキッ!」
どんな夢を見ているのか、想像もつかない。
だが真友子は、思わず小さく吹き出してしまった。
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