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東京の夜空は薄黒い。黒い画用紙にタバコの灰を撒いて塗りたくったような空には、粒のような輝きがない。それを覆うように倒れこむ月山の毛先からはシャンプーの甘い香りと、人間らしい皮脂の匂いがした。きつく抱きしめて突き上げていく。右耳に刺す喘ぎ声が気分をより高揚させた。 「ねぇ、お尻の穴、触って?」 一度だけ頷き、風間は背に巻きつけた両手を尻に持って行った。アナルは蓋をしているようにきつい。指の腹を少しだけ沈めていくと、彼女の喘ぎ声に変化が起こった。未知の快感なのだろうか。 右手で肛門を刺激し、左手で結合部に触れる。ペニスを呑み込む膣は、どちらのものか分からない粘液でぐっしょりと濡れていた。自分では拝むことのできない秘部。ただそれでよかった。全てを見るより、知らない方が良いことだってある。それは風間が今一番胸を張って言えることだった。いくら想いを伝えても、相手は自分に何の想いも抱いていない。この世界は知らなくていい事実で溢れているのだ。どの蓋を開けるのも、何を見て後悔するのも、その人間次第である。 毎日気にしている短い爪は相手を愛撫するのに最適だった。指先を少しだけ肛門に沈めると、彼女の喘ぎ声が深くなる。やがて指を抜くと、彼女は上半身を起こした。明かりが逆光となって月山の表情が見えなくなる。浅い闇から聞こえてくる喘ぎ声は激しさを増していた。膝立ちになって結合部をむき出しにする。全身を上下させて快感を得ていく月山を見て、風間は告白の答えを思い返していた。 2人は今、誰よりも眩しく輝いているのかもしれない。闇に染まった公園の中で虹色の光を放ち、2時間のセックスが刹那の瞬きとなって、やがて消えていく。この世界で2人が交わっているなんて誰が知っているだろうか。地表との距離が最も近い場所で輝く流れ星、風間が腰を突き上げるだけで流星群が生まれるのだ。 宇宙の細かな塵が地球に滑り込み、大気に触れると摩擦で燃えて輝く。まさに月山の言う通りだった。人間とは常に知らぬ場所に飛び込んでいくものだ。学校、アルバイト、会社、さらには友人たち。そこで今という輝きを見せる。全てが月山の思い通りなのだ。 「あっ、真理亜さん。また出そうです。」 押しては引くような熱がようやく先端に集中し、絶頂が近付いてくる。腰を下ろした月山は風間の胸元に両手をついて体を支え、グラインドさせた。パンを練り込むように膣内でペニスを刺激していく。風間は情けない声を途切れるように発し、彼女の体内を介して夜空に向けて射精した。連続のエクスタシーはとてつもない疲労感を生み、このまま体が溶けて代々木公園の一部になってしまうのではないか、そんな恐ろしさもあった。しかしそんな危うさに溺れてしまいそうな風間に手を差し伸べたのは、やはり月山だった。 「私も時間もまだだよ。ちょっと待ってね。」 ゆっくりとペニスを解放させ、月山は彼のベルトを外してスラックスとトランクスを勢い良く脱がせた。ダンボールの上にそれを放り、彼女はあろうことか風間の両足首を持って彼を半分に折ったのだ。ペニスの先端が彼の腹部にぐったりと垂れ、肛門が夜空を真下から眺める。月明かりに照らされて露わになった風間のアナルに、月山は顔を持っていった。アダルトビデオでしか見たことのない体勢を自分が表現している、未体験のポージングで、風間は赤面していた。 「ちょっと、真理亜さん…そこは…。」 肛門のシワを舌先でなぞると、得たことのない快感が体中を駆け巡る。力を全て吐き出したペニスに、薄い熱が徐々に戻っていく。月山は両手で尻を外側に寄せ、舌先を谷底に滑らせながら言った。 「あれ、元気になってきたね。」 ペニスの内部に残った精液が先端から漏れ、本来ならば縮まっていくはずの陰茎は硬度を取り戻していた。首だけを起こして下腹部の奥を覗くと、そこに月山の新たな表情を見た。ぱっちりとした目を細めて眉尻を下げ、口端を吊り上げている。されるがままのあられもない姿を見て、妖しく微笑む。2人の関係が終わってしまう24時まであと40分、滑り込むように新たな表情を知ってしまったのだ。 「真理亜さん、僕もう戻れないです…こんなにも魅力的なあなたの表情をいくつも知って、普通の生活に戻れないですよ…。」 睾丸を舐め、硬度を取り戻したペニスを扱きながら月山は微笑んでいた。 「言ったでしょう。人は皆流れ星だって。一瞬誰よりも眩しく輝いて、人知れず終わっていくの。誰かと出会って、光って、別れて、光を失う。人生ってそういう輝きの連続なんだよ。だから、私があなたの眩い光を奪ってあげる。」 そう言って月山は彼の両脚を抑え込み、ペニスを手に取って真上に向けた。風間の腹を挟むようにして足を下ろす。2人は緩やかなカーブを描き、体験したことのない体勢で繋がった。 「ほら。あっ、どう?気持ちいいっ?」 未知の快感は恐ろしいほど気持ちが良かった。彼女の体重がずっしりと腰に伝わり、あやふやなバランスのまま体を求めていく。こんなにも気持ちの良いセックスを知って、数十分後には関係が終わってしまうのだ。抑えきれない涙でうまく呼吸ができず、風間は何度か咳き込んでしまった。 やがて体位を変え、彼女は風間の真下に潜った。白く細い足は既に汗がべっとりとついており、触れてしまえばそのまま離れないのではないかと疑ってしまうほどだった。 2人の体液が木星のように渦を巻く秘部に、細い痙攣を続けるペニスを挿入した。いつ挿入してもその快感は新鮮だった。左手を確認すると、24時まで残り5分だった。思わず腰を止めてしまうと、月山は息を乱しながら問いかけてきた。 「どうしたの、もういきそうなんでしょ?」 自分が果てる感覚は、自分が一番理解していた。だからこそ腰を動かしたくないのだ。風間はぼろぼろと涙を落として言った。 「だって、出しちゃったらこれで終わりじゃないですか。もうこれ以上動かしたらすぐにいっちゃうし、もうこれで終わりだし…まだ、まだ真理亜さんと一緒にいたいのに…。」 風間は駄々をこねる子どものように泣きじゃくっていた。夜の公園で下半身を露わにしながら涙を流す自分は滑稽に見えるだろう。そんな恥じらいを打ち消すほどの悲しさが彼にはある。すると月山は風間の首元に両手を回し、勢いよく引き寄せた。距離がゼロになり、左耳に彼女の声が侵入した。 「私はあなたのことをちょっとしたら忘れるかもしれないけど、隆平くんは私のこと、ずっと忘れないでね。」 そう言ってワイシャツの襟をはだけさせ、左肩を剥き出しにする。鎖骨の上に乗った柔らかい肉に、彼女は自分の歯を当てた。 痛みは一瞬だった。生温い水滴が、彼女の噛んだ箇所から伝う。落ちる血液を舌でゆっくりと舐めとると、風間は限界を迎えてしまった。 「嫌だ、あっ。いくっ。」 何かを否定しながら射精するのは初めての経験だった。今まで体験してきたどのセックスよりも大きな絶頂は、下腹部から全身を流れ星のように駆けていく。ぼやけた視界の中で、月山はゆっくりと微笑んだ。 「バイバイ、隆平。」 そうか、自分は光を失ったのか。未だ眩い星の輝きを放つ月山真理亜を見下ろし、風間隆平は燃え尽きた。
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