1.あの日、ボクは光を知った

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1.あの日、ボクは光を知った

季節は初夏を迎え、陽が登っている時間は日に日に伸びている。この前までだったら、もう真っ暗になっていたのに。今は部活を終えて家路に着いたとしても夕日を背に歩くボクらの前には、二つの影が寄り添うように並んでいる。 制服は今日から、冬服から夏服へと衣替えした。夏服を迎えるのはこれで二回目になるが、アカリは袖を通すたびに夏服の方が好きだな、と思う。歩くたび、ひらりと揺れるスカート。ひっそりと指で摘まんでみれば、まるでスカートの裾が軽く踊っているように見える。 アカリは、ゆっくりと羽織るカーディガンの裾で指先まで覆う。夏の入り口とはいえ、夜に近づくにつれて肌寒くなる。ヒロのものだから、やっぱり大きい。 部活の終わり時間が近づいた頃。教室を出ると同時にカーディガンを忘れたことに気づいたが、あとは帰るだけだし、と寒さを黙っていた。幸い、高校から家までは遠くない距離だ。そんなことを思いながら帰り支度をするヒロのそばに行くと、突然カーディガンが放られてきた。 「風邪引くから、これ着とけ」 ――アカリは一度体調崩すと長引くからな ヒロは脱いだジャージを畳みながら、アカリに笑いかけてくる。その笑みに胸は射抜かれ、思わず顔を伏せる。そんなアカリを待ち構えていたのは両腕に抱えていたカーディガンで、両頬がさっと熱くなった。 いつだってそうだ。ヒロはふいに人をときめかせる。 ありがたくカーディガンに腕を通せば、余った丈が動きに合わせて揺れた。同性とはいえ、小さいときからあった体格差は年々広がっていくばかりだ。自覚する差に鼓動を速くさせながら制服の上から胸を擦る。 裾から覗く爪は、今の気持ちを示すかのようにピンク色に染まっていた。 「ヒロ、また大きくなったでしょ」 数分前のことを思い出せば、余る裾を握り、見上げながら問いかける。そうすれば、すぐに前を向いていたヒロの顔がボクを見た。その顔は花が咲くようにふわりと笑っている。 「アカリは昔から小さいからな」 ぽんっ、と大きな手のひらが頭の上に置かれる。と思えば、二つに結んだボクの長い髪を乱さないようにしながら優しく撫でていく。この手はもう、ヒロの癖のようなものだ。 昔から、ヒロはよくボクの頭を撫でる。 「初めて会ったとき、ボクのこと、女の子だと思ってたもんね」 「あの格好してたら誰だって間違えるだろ」 ふふっと声を出して笑えば、つむじを軽く指の腹で叩かれる。 「まあ、今も昔も可愛いよ」 頭を包んでいた手は後頭部を滑るように落ちていくと、肩を抱き寄せられる。見上げた先にあるのは、甘く溶けた瞳。そして、その満面の笑みは初めて会ったときのことを思い出させた。 「ヒロも、昔から変わらないね」 そう笑いかけ、ヒロの背中に回した手でシャツを小さく摘まんだ。制服が重なるほど近づくと、ほのかに石鹸の香りがする。それを静かに感じていると、昔の懐かしい情景が頭の中で広がっていく。 ヒロは知らないだろう。出会ったあの日、その笑顔に光を見たことに――
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