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アカリは、ヒロとの間に結ばれた手を見つめながら必死に足を速める。二人ともすっかり雨に濡れ、さっきまで肌にあった熱は冷やされ、なくなっていった。
アカリの家まで、もう少しだ。息が荒れる中、薄暗い街に溶けこむヒロの背中を見る。するとふいに、今までヒロに言われた言葉を思い出していく。
“俺、アカリの長い髪好きだよ”
“制服、似合っているね”
アカリを褒め、肯定してくれる。たどたどしくしか話せない本音を、最後までちゃんと聞いてくれる。叱るときは叱ってくれ。でも、アカリがしたいと思ったことが絶対に否定しない。
なのに、ボクは一人、自信が持てないままだ。ズボンよりスカートを履きたい。髪の毛は長い方が似合うと思うし、色はピンクや白が好き。そう強く思うのに、いざというときに前に踏み出せない。
もっと自信を持って、悪口に言い返すことができたのなら。ヒロに守られなくともいいくらい強くなれたのなら。……ボクは、ヒロに告白できるのかな。
濡れた制服、透けた肌色。よく手をつないでいた子どもの頃よりずっと大きくなった身体。中学でできた女子の友達の話では、ヒロに好意を持っている子は多いとか。実際、ヒロに告白しようかなと相談する声を聞いたこともある。
いつか、ヒロも恋人と手をつないだりするのかな。できることなら、見たくないな。
お願いだから、今だけはボクとだけつないでいて。いつかあるかもしれないヒロの未来に勝手に泣きそうになりながら、アカリは微かにヒロの手に力を込めた。
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