1. 月光の下、約束を結ぶ

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1. 月光の下、約束を結ぶ

「狭くないか?」 「狭いけど、……これがいい」 そう言うと、アカリはヒロの腕の中で身を丸める。 小さなオレンジの光がぼんやり、ピンクと白でまとめられたアカリの部屋を照らす。机の上には、さっきまでヒロと一緒にやっていた宿題が広げられたまま置かれている。いつも一人で眠るベッドに今、ヒロとともにいる。 今日は、母が夜勤でいない。月に一回あるかないかの夜勤だが、そんな日は決まってアカリの家にヒロがお泊りする。だから、アカリの家には昔からヒロの寝間着や歯ブラシが常時置かれている。 夜深く、潜りこんだ先にある静寂。そこで微かに聞こえるのは、どちらかが動いたときに奏でられる衣擦れと風が打つ窓の揺れ。アカリもヒロも無理には言葉をつなげようとはせず、お互いの体温を感じ合う。 そうして、穏やかな時間が過ぎていく。そんな中、ヒロはアカリの背中をぽんぽんと叩き、撫でつづける。ヒロは小さい頃から母親を真似し、こうしてアカリを寝かしつける。だからか、そうされるだけでアカリの瞼は重くなっていく。 アカリは増していく眠気に、目の前にあるヒロの首筋に顔を埋めた。そこからは、いつもの爽やかなミントの香りとは違い、自分と同じ甘い香りがする。アカリは眠気に導かれるまま甘え、すり寄る。 「おやすみ、アカリ」 耳元で囁かれるヒロの声を合図に、アカリは夢の中へ足を踏み出した。
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