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ぼんやりと意識が浮かび上がる。それに導かれるように瞼を開けば、ゆっくりと視界が広がっていく。 随分と懐かしい夢を見たものだ。あのときから、ヒロは優しかったな。 夢を思い返しながら欠伸を一つすれば、意識がハッキリとしていく。すると、暗がりの中にはヒロが寝間着にしているスウェットの灰色。背中には大きな手のひらの感触があり、優しく抱きしめられている。 アカリはヒロを起こさないように気をつけつつ、もそもそと腕の中を動き、布団から顔を出す。壁にかかった時計の針は、まだ夜中と言っていい時間だ。 すぐそばには、静かに眠るヒロの寝顔。子どもの頃に比べれば、その顔は大人に近づいているものの、昼間で見るよりかは幾分か幼く見える。 それにしても、小さいときのヒロ、可愛かったな。 思い出し、声を押し殺して笑う。あのときはこんなに長い時間、隣にいるとは思っていなかったな。ヒロは今でも、あのときの約束を覚えているだろうか。……覚えていてくれたら嬉しいな。 そう思っていると、ちゃんとヒロの顔が見たくなってきた。 夢のときとは違い、アカリを守るように包みこんだ身体。試しに首筋にすり寄れば、甘やかすように抱きしめられる。まだ、ヒロの瞼は閉じられたままだ。無意識にされるその行為に胸をときめかせれば、アカリはゆっくりとヒロの様子を見ながらも上へと動いていく。 あと、もう少し。 ぐいっと身体を動かし、ヒロと顔を並べる。そのとき、ヒロの眉間に皺が寄り、背中に触れる手に力が入った。と思えば、強く抱き寄せられる。そんなふいの出来事に、ヒロの首に唇が当たった。 起きた、だろうか。おそるおそる、ヒロの顔を覗き見てみる。でも、瞳は顔を出してはいなくて、どうやら無意識の中でやっているようだ。 アカリはそっとヒロの背中に片手を回す。そうして、いつもヒロがやってくれるようにぽんぽん、と軽く叩く。すると、寝ていながらも伝わったのか、眉間の皺がなくなり、穏やかな寝顔に戻っていく。 ボクはここにいるよ。ヒロの隣にいると安心するよ。 アカリは伝わるようにと念じながら優しく背中を叩く。そうすれば、徐々にヒロの身体から無駄な力が抜けていき、アカリを求めるようにもぞもぞと寄ってきた。ヒロを甘やかしている。それだけで心が満たされていく。 ヒロも、こんな気持ちになっているのだろうか。答えを問うように、閉ざされた瞼を見つめてみる。でも、返されるのは寝ているにしてはやけに綺麗な顔と、微かに聞こえる寝息。 「……一緒に、いようね」 募る愛しさにそう呟くと、アカリはそっと眠るヒロの唇に口付けを落とす。約束を結び直すように軽く触れる唇。その柔らかさを静かに堪能すると、ヒロの胸に飛びこみ、朝が来るまで素直に甘えることにした。
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