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“「こんな筈じゃ無かった」って誰もが繰り返してる
「ただ幸せになりたかっただけなのに」
辛い事を辛いと言えない
雨音に消えた君の声 聴こえていたんだ
生きて 生きていいの ただ純粋に生きればそれでいい
ちっぽけな君だとしても この世界は君の為に在るのだから
逃げて 逃げてもいいの 立ち上がる為に費やした月日は
無駄になんかならないから どうか心のままに 願うままに”
男のくせに、随分高い声だと笑われたこともあった。ネットにアップしても、大した評価は得られなくて、時には酷いコメントがついたこともある。そもそも、俺は歌が趣味で勉強したいと思っていたとはいえ、子供の頃から歌が上手いと自分で思っていたわけではないのだ。
ただ好きだから、極めたいと思っていた、それだけである。
けれど時に、そんな“下手の横好き”を馬鹿にして、可能性を潰そうとする人もいるものだ。下手な人間がいっちょまえにやろうとするな、とか。才能がないんだから諦めろ、というのもよく聞く声である。何も、プロというわけではない。お金を取って歌声を聞かせたわけでもないのに、“時間を返せ”なんてことも平気で言う人がいるから本当に困った話だ。
そして、それはリアルでも言えることである。
母は、俺が音楽をやることを嫌った。俺が歌うと、虫の居所が悪い時はその場で平手を食らったものである。結局、曲を作るのも歌うのも母が出かけていない時に限られていた。防音も何もないアパートで苦情が出てしまってからは、曲を作っても歌うことはほとんどなくなってしまった。それに加えてお金がない状況である。
自分には、好きな音楽をやることも許されない。
なら、もういい。幸太を幸せにできるのなら、自分はもうどうでもいい、そう思っていた。――自分が何を思ってこの歌を歌ったのかも、忘れてしまいそうになりながら。
“「こんな事望んでない」ってみんなが苦しんでいる
「ただ当たり前の愛が欲しかっただけ」
痛い事を痛いと言えない
包帯だらけの心を 抱きしめたいから
生きて 生きていいの ただ祈るように生きればそれでいい
頑張ってる 頑張ったよね 頭を撫でて手を差し伸べられたら
泣いて 泣いてもいいの どうか自分を殺したりしないで
君達はまだ子供でいい どうか心のままに 願うままに
無理矢理笑わなくていい
君がそこに居るだけで
救われてる人はたくさん
いるってことを 忘れないで”
偽善的だ、という意見も貰った。
あんたなんかが歌っても迷惑なだけよ、と母には叱られた。
でもきっと、どこかでそれを捨てきれなくて、自分は幸太の傍だけで歌っていたのだと思う。幸太は、それをきちんと拾い上げてくれていたのだ。
ああ、なんだろう。お金はないのに、何も買ってあげられなかったのに――どうして今、違う涙が出るんだろうか。
“生きて 生きていいの 生まれてきた全ての人には
幸せになる資格があって 幸せになれる力を持っているの
世界はとても残酷で 全ての願いが叶うわけじゃない
でも君が願い続ければ 可能性の道は必ずつながるよ
生きて 生きていいの 挫けたって構わないから
何の為に私達の手は 繋ぐ事が出来るかを覚えておいて
逃げても 泣いてもいいの それは弱さなんかじゃないんだよ
全てが明日への糧 だから諦めないで 見つめてみて
君の生きる世界は ほら こんなに美しいということを”
きっと、最後の方は涙声で掠れて、ただでさえ音痴な歌声がさらに散々なことになっていたに違いない。
それでも幸太の盛大な拍手と笑顔で、全てが喜びで染まったのだから、俺は本当に単純だ。
世界は残酷で、相変わらず母は毒親で、お金はなくてアパートはボロで。誕生日ケーキもプレゼントもなく、明日の御飯もどう安上がりに済ませるかを全力で考えなければいけない状況であるけれど。
「にーに、もういっきょく!これもききたいの!」
「……おう、いいぞ。今日は、幸太のためだけのコンサートだからな」
この子がいるのなら。きっと俺は、世界で一番幸せな歌手で、幸せな兄になれるだろう。
来年はこの子のために、新しい曲を考えてみるのもいいかもしれない。
愛する者との小さな約束が一つあれば。それだけで、どんなに辛い日々であっても乗り越えていける。それがきっと、人という生き物なのだから。
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