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――どうせ、父親から養育費もらってても、大半があの女に使われちまうんだよな……家を出て、俺の金だけで幸太を食わせるのとどっちがマシかね。
そんなことを考えるようになったのは、幸太が五歳、俺が十八歳になった年のことである。俺のバイト代の使い道は、足りない時の食費などの生活費と、幸太の将来のために備蓄されていたのだが。それを切り崩してでも使うと決めている使い道が、幸太の誕生日のお祝いのための費用である。
安いケーキと、ほんの少しのお菓子。それだけのプレゼントを、幸太が毎年楽しみにしてくれていることを知っていた。なんとしてもその楽しみだけは維持したいと、俺はお金を貯め続けていたのである。しかし。
『おい、あんた!何考えてるんだよ、それは俺のバイト代だろ!合わないと思ったら、あんたが勝手に俺の財布から盗んでたのかよ!』
『盗むって何よ!?あんたが稼いだお金なんだからうちのお金でしょ、使って何がいけないわけ!?』
俺が生活費として引き出したお金を、あろうことか母親は勝手に抜いて使い込んでしまったのである。最近の母の金遣いの荒らさは目に余るものとなっていた。どうやら、ホストの男に貢ぐようになってしまったらしい。引き出したばかりの生活費をごっそり奪われてしまっては、今月の食費もままならないことになる。俺は貯金を切り崩して、食費に当てることになってしまった。当然、幸太のケーキやプレゼントなどを買う余裕など残るはずがない。
一体何故、こんなことになってしまうんだろう。
音楽の道を諦めると決めた時でさえ泣かなかったのに、その日ばかりは母が遊びに行ったあとで声を枯らして泣いてしまった。いまや、幸太の存在だけが、俺の生き甲斐と言っても過言ではなかったのである。何のために今日まで、朝から晩までコンビニできついバイトして、幸太に淋しい想いをさせてまでお金をためてきたというのか。これでは何の意味もない。断じて、あの女の遊ぶ金を貢ためではなかったというのに。
『にーに、なかないで。にーに、だいじょうぶだよ。こーたここにいるよ。こーたがいるからね』
まだ保育園に通っている幸太は、そう言ってずっと傍にいてくれた。
それがどれほど俺にとって嬉しかったか、きっとあの女には一生わからないことだろう。
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