はこぶ、はこぶ。

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 ***  車に乗った後、気づくと俺は眠ってしまっていた。下ろされたのは、どこかの山奥である。目の前に、ざーざーと流れる急流がある。一体どれほどの時間が過ぎ、どれほど遠いところに来たのか全く分からなかった。同じ車に乗っていたのは、案内人を除くと俺以外には四人である。キョロキョロとする参加者達に、案内人は一枚ずつ紙を配って言った。 「皆様のゲームは簡単でございます。今からダンボールをお渡ししますので、それを紙に書かれた規定の地点までお運びください。それが完了しましたら達成です。今お渡しした地図と引き換えに、百万円が入った紙袋をお渡しします」 「え、それだけでいいのかよ」 「はい、それだけのゲームです。大して重くもない荷物ですので、女性の方でも難しくないと思われます。頑張ってくださいね」  なんじゃそりゃ、と思ったのは俺だけではないはずである。だが、此処まで来てしまった以上、やっぱりやめますとは言いづらい。自力でも帰れないし、何より目の前の百万円が本当ならばとにかく喉から手が出るほど欲しいお金である。百万円もあれば、家賃は勿論バーで溜め込んでいるツケも精算できるというものだ。ちょっと美味しいものを食べに行く、なんてこともできるかもしれない。  彼はトランクに詰め込んである四つの紙袋を見せた上、その場に積まれていた四つのダンボールを示した。ゲームというより、超高額のアルバイトをしたようなものだと割り切ればいいだろう、と判断する。 ――死体とか入ってたらどうしよう……なんてな。  当然、ダンボールは綺麗に封がされていた。開けないでくださいね、と当然念を押されることになる。中身が気になるところだが、中でがさごそ物音がするということもなければ、死体のようにずっしり重いということもなかった。むしろ、ひょいっと持ち上げられてしまうくらいの小さなサイズ、軽さである。参加者には小柄な女性もいたが、特に問題なく持ち上げられているようだった。  何か怪しいものなのかもしれないが、死体じゃなければどうでもいいやと思う俺。  仮に危ないものだったとしても関係あるまい。自分は頼まれて、これを運ばされただけなのだ。見たところ、爆発物なんてものでもなさそうであるし、そう問題もないだろう。  強いて言うなら――地図で示された場所へ到達するには、だいぶ坂道を登らないといけなさそうだった、ということくらいだろうか。 「頑張ってくださいね、勝俣さん。鍛えてらっしゃるようですから、大丈夫だと思いますが」 「……俺の個人情報、どこまで知ってるんだよアンタ」  訝しく思いつつも、俺は従うことにした。  これさえ終われば、百万円が待っているのだから。  ダンボールは、川の上流に来たところで水の中に投込めと書かれていた。あれでは中身がダメになってしまうだろうに、何が目的なのだろう。  まあ、自分にはどうでもいいことであるのだが。
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