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日常 1
暗い部屋。月明かりだけが照らす部屋。
男の息遣いだけがこだまするただの部屋。
少年が見える。少年はみている。
男を見ている。男は怯えている。
少年は男の頭に手を伸ばす。
男の瞳孔が開き、額を恐怖のしずくが流れる。
しずくが頬を落ちる。あごを伝う。
そしてその先端から、ぽとりと放たれたとき男はわれにかえり、
綺麗な白い手から逃れようと不格好に這って逃げ出した。
少年は慌てる様子もなく、ゆっくりと歩んで男を追った。
男はすがるようにドアノブに手を伸ばす。
開くはずもなかった。ノブは虚しくガチャガチャと鳴いた。
感情のない顔がゆうゆうと男のもとに歩み寄ると
「そうだね」「みんなはじめよう」と虚空の方を向いてつぶやいた。
男の視線が少年の声が向けられた先を探してさまよう。
しかし暗がりと少年と男以外、何も写さなかった。
「……?」
正面に視線を戻した瞬間、少年の手が男に触れる。
「あっ」
最後の声は断末魔にしては幾分間抜けで、
男の瞳が白と黒を行き来したかと思うと、
目と口と鼻からだらしなく液体が垂れて男は静かになった。
しばらくして少年が男の額から手を離す。同時に男の体が崩れた。
「終わったよ」
少年はまた誰かに話しかけるように囁く。
「ところでさ…」
少年の声色と、視線が別の虚空に向かって飛ぶ。
「さっきから僕達をみてるのは誰?」
冷たい視線に何千理も先で僕は恐怖する。
平成を保てなくなった僕の意識とともに空間が歪み。
冷や汗とともに目が覚めた。
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