1人が本棚に入れています
本棚に追加
日常 2
その日の朝は特別ではなかった。
フライパンに卵を落としたとき
二階から姉がダラダラとおりてくるのも
リビングの椅子に突っ伏して再び寝ようとする姉にこう尋ねたのも。
「姉さんもいる?」
「ん」
短い肯定を受けて、2つ目の卵を取るために冷蔵庫をあける。
それからユウキは二人分お朝食を用意して
片方を姉が突っ伏す机の横に置き
自分はその向かいに座った。
「姉さんはさ、三番に潜ったことある?」
「……三番?」
姉は気だるそうに顔をあげる。
「今日、潜るんだ。三番ははじめてだから」
彼女ははボリボリと頭をかく。
「……ああ」
思いたることが合ったようだ。
「ショウが言ってたからさ三番は本当は神様じゃないから
潜ったやつはみんな気が狂うんだって」
「信じてんの?」
彼女はニヤリと意地悪く笑う。
「別に信じちゃいないよ。
でもそういえば姉さんって三番じゃなかったかって思ってさ」
「何だつまらん」
わざわざ本当につまらなそうな顔をしてから、
僕が運んできた朝食に手を伸ばした。
「安心しなよ。
私は三番の専属だけど気は狂っちゃいないでしょ?
あんたは潜るって言っても今日だけじゃん」
僕はまだ研修中の身だ。
「だから聞いてみただけだって」
一通り朝食を平らげた僕はコーヒーの入ったマグカップに手をかける。
「ちなみにさ、最終的に何番になるかってどうやって決まるの?」
「さあ?相性とかじゃない?
そんときになると彼女が勝手に教えてくれるよ」
「なるほどね」
おざなりな返事におざなりに返して僕は席を立つ。
そろそろ家を出る時間だ。
「今日夜は?」
立ち去ろうとする僕の背中に声が飛ぶ。
「いらない。終わったらまたショウと食べるから」
「了解」
「いってきます」と最後に残して僕は家を出る。
その日の朝は特別ではなかった。
いつもの朝食いつもの会話。いつもの朝
それが姉と過ごした最後の朝になるとは思ってもいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!