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There will be love there ー愛のある場所ー
_限りなく世界の終わりに近い世界、曖昧な四季、空は都会のカオスがすべて多い尽くして始まらない朝はたまにある
また一日が始まってしまった。旧東京都カミヤバラ区、とあるビルの一室、むき出しのコンクリートが空気を張り詰めさせる部屋、ハザマはタバコの灰と鉄くずにまみれた部屋を一瞥し何かを探す。机の上には色あせた2000の文字が躍るデスクトップPCが黒い光を放っている。ビルに囲まれて朝日の差し込まない部屋でハザマは雑に貼り付けられた蛍光灯を点しつぶやいた。
「お前のせいだぞ」
涅槃寂静、天衣無縫。わずらわしさが幾重にものしかかり先の見えない世界で彼女だけは安らかな顔で眠っている。手入れのされた黒い長髪、陶器のように滑らかな手、紺色のカーディガンとスカートから覗かせる太ももにはむき出しの基盤と配線がだらしなくたれている。
「とんでもないネズミが住み着いていたもんだ」
突如轟音がなりひびき、コンクリートの壁の一部が消え去り華麗に装飾された部屋の一室が覗かれ、ぞろぞろと素顔をサングラスで覆い武装した「ネズミ捕り」とブルドーザーのような重機にチェーンソーやら飛び道具やら人を殺す機構が存分に施された「清掃ロボット」が入ってくる。
「家畜のくせに、人のものをちょろまかした末に人の家に居つくとは失敬なやつだ」
「・・・家畜じゃない」
「AX-05は返してもらう、あいにくだが」
「ずっと治安局の中にいたのに、気づかないなんてね」
「ネズミではなあ!」
ネズミ捕りのトップ格「統制官」の合図とともに清掃ロボットの電源が入る。キャタピラが乾いた鈍い音を立てながら回り始め、ゆっくりとハザマに近づく。
「遅かったなあ!」
ハザマはAX-05___エレナを一瞥してにやりと不敵に笑った。その瞬間、安らかな顔を浮かべて眠り続けていたエレナがすっくと立ち上がり清掃ロボットへと走り始めたかと思った瞬間、180度に振り上げられた足が清掃ロボットに直撃し、床を抜きネズミ捕りもろとも吹っ飛ばした。
「やべっ」
とっさにハザマは右手で壁をつかみ、左手で宙のエレナを抱きかかえる。
「本当に、お前のせいだぞ」
あっという間に静寂に包まれた空間で、かすかに残った床に這い上がりエレナはハザマを後ろから抱きついた。
しばし静寂の中だった
「ハーくん、心臓ドキドキいってる」
「・・・お前のせいだよ」
「ここに住もうと言ったのはハーくんだよ」
「・・・逃げよっか」
「でもさ、この世に逃げられるところがあるのかな?」
ハザマは一呼吸おいてから、誰にも話したことのない秘密を打ち明ける。
「それを知るためにここに潜んでいたんだろ」
「登塔者シメオンの梯子、連中は裕福な人間を選んでここではないどこかに移住するつもりらしい」
「ここではないどこかって?」
「・・・さあね」
「まあ、いくしかないよね」
「ずっと寝ているのは嫌だもん。ハーくんがいる世界が好き」
その言葉にハザマは一抹の居心地の悪さを感じながら起き上がった。
「いけるところまで、行くさ」
ハザマとエレナは窓から、数ヶ月のマイホームをあとにした。そしてビルというビルをわたり、数ヶ月ぶりの地上に降り立った。
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