お金がない老人

ＣＯＶＩＤ－１９（新型コロナウィルス）

その日も僕は救急外来の夜勤で待機室に居た。
やっと交通事故の緊急手術を終え、遅い夜食を食べていると、突然、僕の胸ポケットの携帯が鳴った。

「山本先生！　陰圧室（隔離用の個室）の患者さんが急変しました。直ぐに来て頂けますか？」
携帯から今日の夜勤看護師の田中さんの声が聴こえる。

「分かった。今行く」
僕は待機室を飛び出すと階段を駆け上がり二階の陰圧室に向かった。

陰圧室は隔離患者用の部屋で、ここ帝国大学病院には二十室が在るが既に八室がＣＯＶＩＤ－１９(新型コロナウィルス)重症患者に占有されていた。

僕が陰圧室の前で防護服を着用し部屋の中に入ると、部屋には心電モニターの甲高い警告音が鳴り響き、看護師の田中さんが患者さんの心臓マッサージをしている。
僕はもう一人の看護師の内藤さんに声を掛けた。