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兄を失ったその日から、リオルの兄作りの日々が始まった。
城中の人間を殺して材料にし、足りなくなってからは貴族や民を使っている。愚かなもので、城にはリオルを除いて人形しかいないことに誰も気づかない。材料は潤沢にあるから、あとはリオルの腕次第。
だが、今に至るまで失敗の連続だった。
リオルが作りたいのは本物の兄だ。魂を宝石に変えて保存し、不必要なものを取り除いて綺麗にした記憶を組み込んでも、なかなか本物通りにはならない。今回こそはと思ったが、よかれと思って毎夜彼に見せていた夢が裏目に出たらしい。
何より、本物かどうかを判断する上で重要なことが一つ。
かつて兄はリオルの行いを悪と判断した。だが、殺さなかった。リオルを逃がし、庇って、死んだ。
リオルを守ったせいで、兄は殺されたのだ。
「だから、あなたは僕を殺さなきゃ」
薄暗い工房でひとり呟く。目の前には白い薔薇を敷き詰めた棺と、その中で眠る一番新しい『兄上』の姿。
最終チェックは済ませた。目も、唇も、髪の一本一本に至るまで完璧に再現できている。もう慣れたものだが、兄の器である以上細心の注意を払う必要がある。
リオルは掌の上の赤薔薇の宝石に視線を落とし、微かに顔を歪めた。……胸が、痛い。張り裂けそうだ。
もう何度繰り返したことだろう。そして、何度兄を殺したことだろう。
それでも、リオルは兄を作る。どれほど時間がかかろうとも、何度繰り返すことになろうとも、必ず兄に辿り着く。そのためなら、この胸の痛みにも耐えられる。
ヒトは、これを愛と呼ぶのだろう?
「僕はあなたのために、何度でもあなたを殺します。そして、何度でも作り上げてみせましょう。この世界の誰よりも、あなたの幸福を願っていますから」
ぽたり、と。
細めた瞳から透明な雫がこぼれて、宝石の上で弾けた。
自分が泣いていることに気づかないまま、宝石を兄の胸に置く。すると、宝石はきらめきながら体内に吸い込まれていった。
命の代用品が定位置についたのを確認してから、祈るように両手を組む。
今度こそ、本物の兄でありますように。兄が戻ってきますように。
「あなたをこんな目に遭わせ続ける僕を、悪い子の僕を、どうか殺してくださいね」
正しいあなたに、正しい幸福を。
兄の手によって滅ぼされることだけが、遠い遠いリオルの夢。
カーテンの隙間から僅かに光が差し込み、兄の顔を照らす。睫毛が震え、瞼が持ち上がってゆく。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、リオルは新しい『兄上』に微笑みかけた。
「おはようございます、兄上」
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