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ずぷりと、嫌な音がした。
見れば、不格好なオブジェのように、リオルの右腕がアシュルトの胸を貫いている。
内臓が痙攣し、一拍置いて真っ赤な液体を吐き出す。不思議と痛みも熱さも感じず、ただパキパキという音が耳障りだった。
「え……あ……?」
「わからないって顔、してますね?ええ、ええ、それでよいのです。あなたは僕の兄上じゃないのだから!」
リオルは笑っていた。
ぐるぐると螺旋を描く赤い瞳で、赤く濡れた唇で、おかしくてたまらないという風に笑う。笑っている。
「ごめんなさい、兄上。今回も失敗みたいです。ええ、僕は騙されません。今までのモノに比べたら上手くできましたが、誰より正しい兄上が、この僕を殺さないなどとほざくはずがありません。ああ、残念です!やっと兄上に会えたと思ったのに、これも偽物だったなんて!絶望で気が狂いそうだ!」
普段の人形じみた姿が嘘のように、熱のこもった声でまくし立てている。
何を言っているのか、欠片も理解できない。弟が得体の知れない化け物にしか見えない。
だが、アシュルトは自分の意志で身体を動かすことも、悪魔を糾弾することもできなかった。まるで糸の切れた人形だ。
アシュルトの胸の内を知ってか知らずか、リオルはにっこりして、
「僕は兄上のために、何百体もの兄上を作ってきました。ずっとずっと、兄上のために生きてきたのです。それを褒めてほしいとは言いません。理解してほしいとも思いません。ただただ、僕はたった一人の兄上に辿り着きたい。兄上の人形ではなく、本物の兄上にお会いしたいのです。兄上に幸福をさしあげたいのです!」
潤んだ瞳で切々と訴えて、アシュルトの胸からずるりと腕を引き抜く。支えを失い、赤い液体を噴き上げながら崩れてゆくアシュルトに、リオルは血まみれの手を掲げて見せた。
リオルの手には、真っ赤な薔薇の形の宝石が握られていた。それに頬ずりし、夢見るような眼差しで語る。
「これは兄上の魂です。本来の心臓は馬鹿な兵士に穴をあけられてしまったので、こうして宝石に加工しました。綺麗でしょう?僕の瞳の色と同じ赤、兄上のお好きな薔薇です。これさえあれば何度でも作り直せます。……だから、偽物はいりません」
おやすみなさい、よい夢を。
砕け散る寸前、弟だと思っていた何かを凝視しながら、アシュルトは声なき声で叫んだ。
お前が何をしたいのか、まるでわからない、と。
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