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人形王子の願いごと
リオルは人形だった。
ヒトの心がわからない。ヒトの夢がわからない。ヒトの痛みがわからない。
周囲の言うままに生きてきたが、それ以外の時間は部屋に引きこもって、ただ人形を、自分と同じものを作り続けていた。
だがある時、自分の兄だと名乗る青年がリオルを部屋からつれ出し、中庭の赤い薔薇を見せて言った。
「綺麗だろう?お前の瞳の色と同じだな」
兄は、優しく笑っていた。
その時、生まれて初めて自分の鼓動の音を聞いた。胸が痛くて、全身が熱くて、少し気持ちが悪いほど。
本を漁り、資料をかき集めた末に、それは病気ではなく喜びという感情だと知った。
兄とすごすうちに、リオルは少しずつヒトの心がわかってきた。同時に、兄が自分に愛情だけでなく、妬みや憎しみを抱いていることにも気づく。
理由はすぐにわかった。兄は、王になりたかったのだ。血筋だけで次期国王になるリオルは邪魔者でしかない。
だから、兄の願いを叶えてあげようと思った。
禁忌とされる魔術に手を出して精巧な人形を作り、城の人間とすり替えていった。一体につき一人が死んで、だんだんと兄の王位を望む者が増えていった。
だがある時、リオルの行いが露見した。
兄は顔を歪めて激怒し糾弾したが、リオルを見捨てなかった。一度は牢屋に繋がれたリオルを救い出し、城の外に逃がそうとした。
自分を憎んでいたのなら、王になりたかったのなら、リオルなど捨て置けばよかったのに。なぜ危険をおかしてまでリオルを助けたのだろう。
わからない。永遠に答えは返ってこないのかもしれない。
人形王子を人間にした兄は、追手からリオルを庇い、心臓を貫かれて死んだ。
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