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兄と弟
血だまりに立っている。
甘酸っぱいにおいと、真っ赤な泉。ちぎれた手足が奇妙なアートのように散らばり、生白い首が足元に転がっている。一歩踏み出すと、ピシャリと雫が跳ねた。どこか赤い花弁のようでもあった。
「兄上」
声がした。
顔を上げると、あどけない笑みを浮かべた少年が佇んでいた。無造作に括ったさらさらの銀髪も、青白く整った顔も、華奢な手足も血飛沫で汚れている。綺麗なのにもったいないな、とぼんやり思った。血の赤がよく似合っているな、とも。
気づけば自分は剣を握っていた。血脂でぎとついた刃を振り上げると、少年は微笑みを浮かべたまま言う。
「兄上はいつだって正しい。だから、あなたが僕を悪魔と断じるなら、それも正しいことです」
喉がひゅっと鳴った。寒くもないのに歯の根が合わず、何かが頬を濡らす。けれど、剣は体の一部にでもなったかのように動かない。
嫌だ、とほとんど吐息だけで訴えた。嫌だ、いやだーー誰も、殺したくはない。
「あなたは正義の王。何も気にすることはないのですよ。……兄上になら、構いません」
ぱしゃん。
血を跳ね飛ばし、少年は抱きつくように腕を伸ばす。真っ赤な硝子玉の瞳が甘くとろけた。
「僕は、悪い子ですから」
ぶつり。
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