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 隣の部屋へ入る。そこは壁一面金色で、天井も、床も、家具も、何もかもが金色だった。窓はなく、開け放ったドアから入る夕日しかないのに、目が眩んでしまいそうなほど明るい部屋だ。  金ぴかのテーブルの上に手紙が置いてあった。ベルが手に取ったので、私は横から覗き込む。 『ベルンハルト、リーゼロッテ。この手紙を読んでいると言うことは、私はもうこの世にはいないのだろう。不老不死の研究は失敗してしまったようだな。君達二人は私の最高傑作だ。さて、これを書いているのは君達が生まれて十二年経った頃だ。いつ死ぬか分からないから元気なうちに書いたよ。研究に成功していれば破棄するんだから、これが残っているということはやっぱり私は死んだんだ。さて、この部屋にあるのは私が駆け出しの頃に作った金だ。好きなように使ってくれ』  ルーカスは本当に金を作り出していたようだ。人造人間と機械人形を作ってしまうのだから、金を作ることもできたのだ。それとも、普通に儲けたお金だろうか……。いずれにせよすごい量である。  手紙はもう一枚ある。 『ちょっと予言をしてみよう。君達は今、もしくは過去に、探偵業をしている、もしくはしていただろう。なぜ分かるかって? それはベルンハルトには素晴らしい頭脳を与え、リーゼロッテには温かな優しさを与えたからだ。それに、リーゼロッテにはよく探偵物語を聞かせていたからね。困っている人を放っておけないそんな二人が一緒なら、きっと探偵だろう。それとも警察? いや、役場の職員かもしれないな! どちらにせよ、君達には人のために働いてほしい。それはきっと君達のためにもなることだから。そうそう、私が死んだということは、リーゼロッテの定期メンテナンスができなくなるということだ。やり方を見ればベルンハルトには簡単だろうから、どうか彼女を大切に傍に置き続けてほしい。愛しい我が子よ、二人仲良く暮らしてくれ』  私は手紙と一緒に置いてあった写真を手に取る。そこに映っていたのは、優しく笑うおじいさんだった。小さな小さな赤ちゃんを抱いていて、後ろには作りかけの機械の子供が置かれている。このおじいさんがルーカス・クリューガーであり、赤ちゃんがベルで、機械の子供が私の試作品だと思われる。  貴方だったんだ。貴方が、私の父親で、おじいちゃんで、ずっと、私の体を整備していたんだ。  見間違えるはずがなかった。施設にいた時、定期的に来ていた親戚を名乗るおじいさんその人なのだ。出かける時にいつも工場に寄っていたのも、その前後の記憶が曖昧なのも、メンテナンスの際に眠らされていたから。  ベルの目から大粒の涙が零れた。 「そうか。だから僕はあの研究室に見覚えがあって、ルーカスを知っているような気がしていたんだ。そうか、そうだったのか」 『この部屋に入るために必要なのは、リーゼロッテが記憶している暗証番号と彼女の鼓動のリズム。そしてベルンハルトの血。二人の歯車が噛みあうことで、鍵が開かれる』  鍵は開かれた。  ここが、錬金術師の遺産だ。
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