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 錬金術師が死んだ。遺言書は謎ばかり。探偵に依頼がいく。  一週間後、街中に金でできた家財道具がばらまかれることになる。貧しい者達の家へは大きなもの。裕福な者達の家へは小さなもの。突然金が沸いた、錬金術だ。街の者達は謎が解けたのだと探偵事務所を訪れるが、そこはもぬけの空だった。三人の依頼人達へ『これが遺産だった。報酬はいらない』と置手紙があるだけで。開かずの向かいの部屋は開け放たれ、何もない部屋だった。大家の女は首を捻るばかり。  彼の手が私の肌を撫でる。剥がされた皮膚の中で歯車が回っている。問題ないね。と言って、元通りに皮膚を繋ぐ。  小さな後ろ姿を見ていると、いつも勝手に顔が笑ってしまう。変な顔するな、と、また怒られてしまった。  錬金術師ルーカス・クリューガー。彼はまさに錬金術師。大量の金を作り出した。しかし、彼の生み出した子供達こそが誰の目にも触れない秘密の宝。恐ろしいほど冴えわたる頭脳を持つ小さな人造人間と、部品を組み替えていくことで体が成長する優しき機械人形。二人は互いの存在を守るために、研究資料や日記を手に街を離れた。  国の外れ、森の片隅に、知る人ぞ知る小さな探偵事務所がある。待ち構えているのは建物と同じように小さな探偵と、作り物のように美しい助手。  どんな事件もたちどころに解明してしまうという。しかし、腕がいいくせに全く報酬を要求しない。事務所の調度は地味なものばかりだったが、いくら節約しようと報酬なしで人間が二人暮らせるものか。事務所の地下に大量の、それこそ一部屋ぐるっと囲むくらいの量の金が隠してあるという噂もあるが、定かではない。事実を知るのは探偵と助手だけだ。 「ベル、お客さんだよ」 「いらっしゃい。どんなご用件で」 『探偵事務所 歯車堂  閉じられた真相を開ける鍵はここにあります』
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