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 良祐さんは私なら絶対選ばないような、やけに派手な色合いのブルゾンを着ていた。若作りのつもりだろうか。もう四十二だというのに。いや、それとも…… 「どうして、ここにいるの?」  単刀直入に、私は問いかける。 「県立病院をクビになったからさ」彼は苦笑しながら応えた。「勤務時間内の不倫行為がバレたおかげでね。今はこの地区の診療所で働いてる。ま、色々不便なこともあるけど、職があるだけマシさ。今日はオケが来てラフマニノフの2番を()る、って聞いて、もしかしたら君がピアニストとして来るんじゃないかな、と思ってね。ビンゴだった」 「……そう」  正直、あまり会いたくない相手だった。それでもかつては一緒に暮らした人なのだ。無碍(むげ)にはできない。それにしても、彼はいったいどういうつもりなのか。よりを戻したい、とでも思っているのだろうか。  冗談じゃない。こっちにはそんな未練など毛頭ない。そりゃ、寂しいと思うこともなくはない。だけど、再婚するにしても彼とだけはご免だ。先に釘を刺しておかなくては。 「私は、あなたとやり直すつもりは全くないから」 「分かってるよ。僕ももう、再婚したから。明日香とね」
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