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いつの間にか、演奏を終えた瑞貴ちゃんが立ち上がり、怪訝そうな顔で私を見つめていた。
いけない。少しぼうっとしてしまったらしい。それにしても……
驚いた。彼女が自ら口を開くのは、とても珍しいことなのだ。
「……え?」
「先生、なんだかいつもと違うよ」
……なんてことだ。
努めて感情は表に出さないようにしていたつもりだったのに……こんな小さい子に見抜かれるほど、私は打ちのめされていたのか……
いや、瑞貴ちゃんは繊細な子だ。私の微妙な感情の揺れを、彼女なりに感じ取ったのかもしれない。
「ううん。何でもないの。何でも……」
その時だった。
私の両眼から、涙が零れ落ちる。
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