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「どうしたの!? 先生、泣いてるの? 何か悲しいことがあったの?」
瑞貴ちゃんの顔も、今にも泣きそうに歪んでいた。
思わず私は、彼女を抱きしめる。
「先生……う……ぐすっ……」
私の胸の中で、瑞貴ちゃんは泣き出した。
やさしい子……
そう。彼女はこういう子なのだ。決して感情が希薄なのではない。むしろ逆だ。共感力が高すぎて、自らも他人の感情に翻弄されてしまう。彼女の無表情は、そうならないための彼女の仮面、いや鎧だ。
だけど今、鎧を脱ぎ捨てた彼女のぬくもりが、荒みきった私の心の中に染み渡っていく。
そうだ。私にはこの子がいる。この子を全力で育てよう。この子のピアニストとしての親は、私なんだ。
それに、私自身も中田さんに言ったじゃないか。起きた物事に善いも悪いもない、って。だから昨日のことも、きっとこの子を育てるための糧になる。いや、そうしなきゃならないんだ。
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