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 浮気相手その一、中学教師の中田(なかた) 和美(かずみ)は、むしろ被害者と言うべきだった。二十四歳。一年前に虫垂炎で県立病院に緊急入院したときの担当医が良祐さんだったのだ。彼は独身と偽り、彼女に交際を持ちかけた。結婚しよう、とまで言っていたらしい。舞い上がった彼女はすっかり彼と結婚するつもりになっていたのだが……私から内容証明郵便が届いて、凄まじく打ちのめされたようだ。一度私の家を訪れたとき、彼女は松田さんの撮った写真とは別人のようにやつれていた。玄関先で土下座をしようとしたので、私は慌てて止めた。  "起きたことには善いも悪いもないの。いずれにせよ、あなたはなかなか出来ない経験をしたのよ。今後はそれを糧として、前に進んで行けばいいわ"  私がそう言うと、中田さんは大声を上げて泣き出した。とても彼女から慰謝料を取る気にはなれなかった。そもそも取る理由もなかった。  浮気相手その二、県立病院看護師の島田(しまだ) 明日香(あすか)は、誤用になるが「確信犯」だった。二十八歳。良祐さんとの関係は五年ほど続いていた。私を小馬鹿にしたような言動がしばしばあったようだが、松田さんがつぶさに記録してくれていた。それを材料に一千万円の慰謝料をふっかけているが、実は彼女とは未だに決着が付いていない。今後は示談交渉を進め、もし決裂すれば民事裁判に訴えることになる。慰謝料は大幅に減額になるだろうが、裁判になれば記録に残るので、彼女にとっては大きなダメージになるはずだ。
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