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「!」  思わず私は良祐さんの顔をのぞき込む。点いたばかりの駐車場の照明灯が、彼の少しニヤけたような表情を浮かび上がらせた。  やはりか。考えてみれば、昔からこの人は自分の服装には全く無頓着だった。そのブルゾンは彼女が選んだのね。どうりで、彼女らしい下品な趣味だわ。  良祐さんは続ける。 「結局アイツも病院辞めることになって、実家も勘当同然の状態で、行き場をなくしてしまって……僕しか頼る人間がいなかったんだ。だから今、一緒に住んでる。君への慰謝料を一括で肩代わりしてくれた彼女の両親に返すために、二人でなんとか頑張って稼いでるよ。子供も出来たんだ」 「!」  彼の最後の一言は、とてつもない重さをもって私の胸に突き刺さった。 「もう八ヶ月になる。これでようやく僕も父親になることが出来るよ。もちろん子供を育てるためにもさらに頑張らないとな。だから、僕のことは心配いらない。それだけが言いたかったんだ。じゃあ、元気でな」  そう言い残すと、良祐さんは踵を返し、遠ざかっていった。 ---
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