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 本日をもって、私は「大西(おおにし) 百合子(ゆりこ)」から、旧姓の「川村(かわむら) 百合子」に戻った。  噂には聞いていたが、離婚届は本当に緑色だった。それに必要事項を記入するのが、二人の最後の共同作業。そして私は市役所の戸籍係にそれを提出し、そのまま受理された。  十五年の結婚生活。交際期間も含めれば二十年近くになる。それなりに長いと感じていたが、終わるのは一瞬だった。  離婚の原因は夫……いや、もう「元」がつくが……良祐(りょうすけ)さんの浮気。それも相手は二人もいた。松田(まつだ)調査事務所の所長(にして唯一の所員)、松田 雄一(ゆういち)さんは評判通りの凄腕だった。夫とその二人の浮気相手の動向を完璧に押さえ、証拠を固めてくれた。夫は完全に白旗を揚げた。「好きなようにして下さい」と言ってうなだれることしか彼は出来なかった。夫に慰謝料は請求しなかったが、私はその代わり財産分与を放棄させた。結婚後の二人の貯金は一千万円ほど。それがそっくり私の物になる。十分だろう。
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