刑事と協力者

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六畳一間のワンルームマンションの一室。二〇三号室。郵便受けにも、玄関扉の横にも表札が掛かっていないその部屋に足を踏み入れた月城真弓は、部屋の惨状に思わず眉をしかめた。 足が折れた丸テーブル。砕けたカラーボックス。床に散らばる小説や漫画。潰れた缶ビール。中身が残っていたのか、小麦色の液体が床を濡らしている。 床を濡らしているのは、小麦色だけではなかった。足の踏み場もない、荒れた室内。その中央で、腹部から血を流し、男性が絶命していた。 真弓は床に流れる液体を踏まないように注意を払い、男性の側へと歩み寄る。 二十代半ばから後半。目は大きく見開き、肌は土気色へと変色している。部屋着なのか、上下グレーのスウェット姿。腹部だけが、赤く染まっている。 真弓は目線を男性の手元へと移した。右手、左手、周囲に散らばる物。異質な物は見当たらず、確信を込めて口を開いた。 「殺人、ですね」 「だろうな」 応じたのは、筋骨隆々な体躯が黒スーツの上からでも視認できる男性だった。 「発見し、通報したのは大家だが、話を聞いた交番の巡査によれば、昨夜の十時頃に隣の奴が騒音を聞いてたっ言うじゃねえか。それを大家に相談したのが今朝九時。で、来てみりゃあこの有り様。ホトケさんもいれば、殺人を疑うのが常識だ」 「自殺だとしたら、凶器が見当たらないのが不自然ですからね。他殺と思わせた自殺という線も考えられないことはないですけど」 「考え過ぎだ。突飛な発想は捜査を見誤る。こいつは殺人。犯行は昨夜十時頃。ーーったく。違和感を感じたらさっさと通報しろってんだよ。半日たってんじゃねえか」 独り言のように文句を垂らし、男性ーー碓氷篤志が室内に目を走らせる。
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