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 そして一ヶ月後、つまり先月の事である。もはや伝染病は日本全体をすっぽり覆い尽くし、完全に外出を自粛せざるを得ない状況になっていた。啓介の会社も完全休業を決断し、社員全員に業務の停止と伝染病のピークが超えるまで自宅待機を命じた。しかし啓介は家族と一日でも長く過ごせると、この命令を喜んで受け入れた。それを聞いた妻の晴子も表向きは心配そうにしていたが心の中では啓介と同じ理由で嬉しく思った。子供達はパパが一緒に遊んでくれるのが嬉しいようだ。毎日啓介に遊んでとせがんでくる。今や一家は完全に自宅に引きこもり、買い物さえ配達サービスに頼んでいた。しかしそんなストレスのたまる状況でも、一家は普段と変わらず過ごしていた。ある時カーテンを開けながら啓介は晴子に言ったものだ。 「やっぱり、日当たりのいい家買ってよかったよ。太陽が当たらなきゃ俺たち今頃ストレスでおかしくなってたかもな」  そうして過ごしていたある日の事だった。その日家族でテレビを見ていると、突然画面が切り替わり、もううんざりするぐらいお馴染みになった首相会見が始まった。また感染者と死亡者の報告かとうんざりしてテレビを消そうとしたが、首相の隣に大きなガラスケースがあるのが気になり、しばらくそのままにしておくことにした。首相の会見が始まった。 「先日発表した緊急非常事態宣言ですが、その後の感染者数と死亡者数の日本全国への爆発的な増加により、今回新しく可決された『新型伝染病特別法』本日より施行する事を発表します。この法案により、罹患した患者は速やかに隔離され、被害の拡大を防ぐ事が可能になります。私の隣にあるガラスケースを見てください。検査で伝染病への感染が確認され次第患者はこのガラスケースに入っていただきそのまま隔離施設で過ごす事になります。このガラスケースは密閉されておりそのままでは呼吸できませんので患者は酸素ボンベを使用して呼吸します。そして……」  首相の会見と、映し出されたガラスケースのあまりに仰々しい作りに啓介と晴子は思わず笑ってしまった。「ここはSFの世界かよ!」と啓介はテレビ画面に思わず突っ込んだほどだ。    
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