異世界勇者と少女達

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異世界勇者と少女達

―――俺は、異世界転生者だ。 大きな鉄の塊が、眼前に迫った時。 耳をつんざく爆音と、光の洪水に流されるようにして……気がついたら、俺は勇者をしていた。 剣と魔法。 人間界と魔界、そして天界。 広大で不思議な今世で、俺はチート能力を手に入れた。 『概念の能力』『思い込みの能力』『認知を操る能力』だ。 それは強い精神力で発動する。 正に『思い込む事で』何でも叶う。 例えば『空を飛びたい』と思った時。 『自分は空が飛べる』と思い込むのだ。すると次の瞬間、今まで飛んでいたかのように身体は宙へ。 鳥は飛ぶ、と同じく。俺は飛ぶ、と当たり前に思うのだ。 ……なんだ簡単だ、と思うなかれ。 これがとても難しい。 人は既成概念や常識に囚われている。それを精神力で覆すのだ。 本来なら、魔法なんかよりよっぽど難しい能力。 それを俺は、いとも簡単に操る事が出来た。 「ルイ。大丈夫?」 隣の少女が、顔を覗き込む。 「あぁ、マリア」 俺は愛しげに、少女を見つめる。 ……彼女はマリア。 有翼の民。天界の娘だ。 騙されて人間界に堕とされ、奴隷市で取引されている所を救った。 彼女は俺の良き理解者で、恋人。 そして、その回復魔法で俺のみならず仲間たちの命を救ってきた。 仲間達……激しい出会いや、悲しい別れ。 裏切りや、喪失を繰り返して乗り越えてきた奴ら。 皆、それぞれの理由と一つの目的を持って。 それが『魔王討伐』 「この先に魔王が……」 仲間の一人の魔道士が言った。 彼はエルフ。真面目な彼女は、些か神経質にも見られがちだが勤勉で優秀である。 「よーしっ、サッサと倒しちゃお!」 そう意気込んだのが、盗賊(シーフ)の少女。 楽天家でおおらか。魔道士の彼とは、衝突することも多い。 しかしこの旅で、その諍いの数以上に友情を結んできたと信じている。 「……」 無表情で頷くのは、召喚士(サモナー)。 彼女は、グールと人間の混血だ。 まるで氷のような眼差し。 しかし、俺たちは知っている。 ……その冷たい表情の中には、共に過ごす時間で培った絆がある事を。 「じゃあ行くか」 俺は、聳える扉に手を掛けた―――。
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