信玄のキンジュウ

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信玄のキンジュウ

「こいつは戦力外だな」 樹はそう呟くと、ワンタップで『側近その1』を削除した。 高校三年生の夏休みーーー 本当ならば陸上部の樹は今頃こんがり日に焼け、 インターハイで最高の走りを魅せているはずだった。 数ヶ月前、事故で脚を怪我した彼は顧問からたった一言 『君はもう戦力外だ』ーーーそう告げられ、以来陸上部を休部している。 青春を陸上に捧げてきた樹にとって することの無くなってしまった高校最後の夏休みは退屈なものだった。 そんな彼に友人が勧めてくれたのが、 好きな戦国武将に成り切って国造りを楽しめるシミュレーションゲームだった。 戦に勝って領土を広げていくシナリオにおいて 自分の周りを有能な家臣で固めるのは重要なポイントであり、 このゲームにはまった樹は慎重に家臣の品定めをしていた。 「…こいつも戦力外、っと」 顧問から告げられた言葉を、画面越しのキャラクター達に突き付けると なんだかスカッとした気持ちになれた樹は 一人一人のスペックを確認しては憂さを晴らすように削除していった。 「…はー、こんなもんか。 信玄の側近を選ぶからには、頭脳も戦闘力も最高レベルの奴らで固めないとな」 ゲームの中で『武田信玄』に成り切っている樹は 能力値の高い家臣達で固められたパーティー画面を眺めて満足そうに頷くと、 いよいよ新しい領地を開拓すべく戦を仕掛けることにした。 「…いよいよ因縁の上杉と対決するか!」 狙う領地を『上杉謙信』が護る越後に定めた樹は はやる気持ちを抑え、戦闘開始のボタンを押した。 ーーーしかし彼が次の瞬間目にしたのはゲームの画面では無く、 数え切れないほどの死体が転がる荒野だったーーー
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