それから

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「…!!」 紗世は驚いた表情を見せつつ、どう反応したら良いか分からないといった様子で左手に視線を下ろした。 ーーー清姫と記憶が繋がったあの日から、 私には過去と未来を見通す力が備わった。 今日この日にあなたに会えることも、すべて分かっていた。 だから落ち着いて、淡々とこれまでのことを話そうと思っていたのにーーー 私がこんなに心を乱されるのは、 何度も私を探し出して、私を救ってくれたあなたに対して また会いたいという気持ちを募らせながらも その願望を押し殺して、一人で強く生きられるよう前に進んできた日々がやっと報われるから。 私があなたに思いを募らせてきた日々は、 清姫だった前世がそうさせているわけじゃない。 これは私が抱いた、私だけの感情なんだって、あなたに分かってもらいたい。 ーーーでも、それは無理かもしれないわね。 清姫だった頃に抱いたあなたへの思いと 七海紗世としてあなたに抱く思いが どちらも私の胸の中に溢れて、どちらも主張を止めることができなくて、 前世と現世の分までーーーよりあなたが愛おしい。 「…ねえ」 紗世は握られた左手の上に自身の右手を置くと、樹にこう告げた。 「清姫が、あなたに言ったこと。 『紗世の記憶を持つ私は、清姫でもあり紗世でもある』ってーーー覚えてる?」 「…覚えています」 「つまり…清姫の記憶を持つ今の私は、清姫でもあるのよね…。 そして七海紗世も清姫も、どちらもあなたに向ける思いは同じで、どちらも互いに負けないほど強い気持ちだと思っている。 ーーーだから、もしあなたが受け入れてくれるなら… 私と清姫、二人とも愛してほしい。 私と清姫のことを、同じだけ愛してほしいの」 それを聞いた樹は、握っている手を優しく引き寄せ、紗世の身体を抱き締めた。 「ーーー『あなた』を愛してします」
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