菊姫の願い

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菊姫の願い

鈍い音と共に血飛沫が宙を舞った。 ーーーそして樹が床に倒れ込む音を、菊姫は確かに耳にした。 …だが、そこに樹の姿は既に無かった。 「…無事、あちらの世界へ戻ることができたのですね」 菊姫はそう呟くと、いつの間にか血の跡が消えた刀を鞘の中に収めた。 ゆっくりとその場に正座すると、自分の中に流れ込んで来る『新しい記憶』に意識を傾ける。 ーーー良かった。 樹殿は生まれ変わった世界の私ーーー亜純を、ちゃんと救ってくれた。 私も彼女も、樹殿への恋に破れてしまったけれど… 亜純はこれから先、自分らしく幸せに生きていける。 だから、亜純のことは、もう大丈夫ーーー 誰も居ない部屋の中に、冷たい風が流れ込む。 樹殿が元の世界に帰り、これから兄上は妻の桂姫と共に命を終えーーー 私はこの時代に一人取り残されることになる。 そしてこの先長い年月を、この生を終えるまで過ごしていくことになる。
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