大阪

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大阪

「うちのオカンがね。旅行が好きらしいんやけど」 「あっ、そうなんや」 「その好きな旅行先を忘れたらしくてね」 「旅行先を忘れてもうたん? どないなってんのぉ?」 「いや、まぁ、でな、いろいろ聞くんやけどな。それが全然わからへんねんな」 「わからへんの? ほな俺がね。オカンの好きな旅行先、一緒に考えてあげるから。  どんな特徴ゆうてたかってのを教えてみてよ~」 「あの~、関西にある主要都市のひとつでな」 「ほぉ~」 「にぎやかな場所で、たこ焼きやお好み焼きが有名な場所やねんて」 「おー、……大阪やないかい。  その特徴はもう完全に大阪やがな」 「やっぱりな」 「そんなんすぐわかったやん」 「でも、これがちょっとわからへんのよ」 「なにがわからへんのよ?」 「いや、俺も大阪やと思ってんけどな」 「そうやろ?」 「でもな、オカンが言うにはな」 「おぉ、」 「凄く上品な町やった、っていうねん」 「あ~、ほなぁ、大阪とちゃうかぁ。  大阪が上品であるわけがないもんね?」 「そやんな」 「というか、ぶっちゃけ下品と言っても差し支えないんやから。昔から、京都は上品、大阪は下品って相場で決まってんねん。  常識やがな、こんなもん」 「せやせや」 「ほな、大阪とちゃうがな。  あれぇ? ほな、もう一度、詳しく教えてくれる? う~ん」 「やたら神戸とね」 「ほー」 「張り合っているイメージがあるっていうねん」 「大阪やないかい。  関東では東京様が一位かもしれんけどな。関西の一位はお互い、まったく譲ろうとしいひんねんから。張り合うねん。  もう、大阪人はプライドと誇りにかけては、ベジータのそれを上回るからね?」 「それな~」 「でも、これ大阪人に直接聞いても意味ないで? 「神戸? 知らんよ。うちが一位に決まっとろうが」って、ぜったいゆうねん。  眼中にもない、自分が一位アピールがすごいんやから。  こればっかりは神戸も似たようなもんやけど」 「たしかに」 「もう、こんなん大阪やん」 「いや、わからへんねんでも」 「なにが分からへんのよ?」 「俺もな、大阪やと思ってんけどな」 「そうやろ」 「オカンが言うにはな、  味付けにはこだわる人たちが住んでたってゆうねや」 「ほな、大阪とちゃうやないかい。  あのの人らは味付けなんてソースひとつで十分やからね。  たこ焼きにソース! 串カツにソース! コロッケにソース!」 「ねぇ」 「でもな、ホントはソースってひとくくりにしたらあかんねん。金紋、ムスメ、ヒシ梅、ヘルメス、いろいろあって使い分けとんねや。  でもな、正直ゆうたろ。俺からしたらなんも変わらん」 「せや」 「大阪とちゃうがな。  ほな、もうちょっとなんか言ってなかったか? う~ん」 「たこ焼き器が一家に一台はあるらしいねん」 「大阪やないかい!  あれ、冗談や大げさみたいに聞こえてるかもしれへんどな、あながち間違うてないんやから」 「おー」 「下手すりゃ、一人暮らしでフライパンも鍋も持ってないけど、たこ焼き器はあるよ~、って人、探せばおんねんて。  あれよ。なんなら、これ読んでる人の中にも、手ぇあげとるやつおるで?  そういうもんよ、大阪は」 「分からへんねんでも」 「なんで分からへんのよ、もう~」 「俺も大阪やと思うてんけどな」 「そうやって」 「オカンが言うにはな、  お好み焼きにはソバが入ってたってゆうねん」 「ほな、大阪とちゃうやないかい!  大阪のお好み焼きにはソバは入ってないから。それは広島のやつや」 「やっぱせやんな」 「大阪人にそんなまがい物を出してみろよ。  ヘラのようなものでぶち殺されても知らんからね?  やっぱ大阪とちゃうやない。  ほな、もうちょっとなんかゆうてなかった、う~ん?」 「凄く、見栄っ張りな雰囲気があったらしいねん」 「大阪やないかい!  大阪はやたらと見栄っ張りよ?  日本一高いビル作ったり、大阪都構想とかほざいてんねんから」 「お~」 「ほんでな、大阪には地下鉄網があんねんけどな。あれ、もともとは大阪地下鉄って呼ばれてたのにやで、最近経営が変わった途端、大阪メトロの名前を押すようになったんや。  まぁ、勘のいい奴はわかったよね?」 「どゆこと?」 「どうせ、東京メトロに張り合っとんねん!  大阪にもメトロあんぞ、って見えを張ってんねや」 「おぉ」 「でもな、規模でゆうたらボロ負けよ?  あ、これ、間違っても大阪人の前でゆうたらアカンよ? ゆうたら、あの人ら、ホンマにキレてまいよるから」 「ねぇ」 「これが大阪よ」 「分からへんねんてだから」 「なんで分からへんのよ、これで」 「俺も大阪やと思うてんけどな」 「そうやて」 「オカンが言うには、  そこの人たちは温和でおしとやかな人たちやったっていうねん」 「ほな、大阪とちゃうやないかいっ!  あの人らは四六時中怒ってるんやから。起きてるうちの八割がたはキレてんのよ?  じゃぁ、残りの二割はなにか、ブチギレとんねやないか」 「せやねん、せやねん」 「でも、安心してええで。表面上はそうみえっけどな。内心はゲラゲラ笑ッとんやから」 「せやね」 「大阪の人らってそういうもんよ。  やっぱ、大阪とちゃうやないかい。  ほな、もうちょっとなんか、ゆうてなかったか、う~ん」 「ヒョウ柄のおばちゃんをようさん見かけたらしいねん」 「大阪やないかいっ!  ヒョウ柄の服着たおばちゃんが生息しとる地域は大阪しかないんやから。大阪の固有種やからね?  もし、ほかんところで遭遇したら、それはもう新種。  世間揺るがす大発見よ、歴史に名が残ってまうで」 「せやねん」 「もう、大阪やん」 「でも、分からへんねんて」 「なんで、わからへんのよ」 「俺も大阪やと思うてんけどな」 「せやろ?」 「オカンが言うにはな、  川はキレイやったってゆうねん」 「ほな、大阪とちゃうやないかいっ!  大阪の川は汚いよ? 一般常識やがな、これ。  北海道から沖縄までの小学生、みんな知ってんねんから」 「せやねん」 「しかもな、そんな川に飛び込むアホウがおるってのもセットで有名やん。  きったない川に飛び込んだやつが、あとでなんて言うか、知ってるか?」 「知ってるよ~。「腹壊した」ってゆうんやろ?」 「当たり前やないかい! 自業自得って言葉は大阪人のためにあんねんから」 「せやんな」 「とにかく、大阪の川はバッチイねん。大阪とちゃうやないかい。  ほな、もうちょっとなんか、ゆうてなかったか、う~ん?」 「腹にな」 「ほー」 「グリコって書かれた人の看板が印象に残ってるらしいねん」 「大阪やないかいっ!  それ、道頓堀のグリコやん。  あれやろ、こうやって両手と左足を上げてバシッとポーズ決めとるあの看板やろ? 有名やもんな。  あれは、ホントに有名ですよ」 「そやねんそやねん」 「あの看板が独り歩きしすぎて、看板は知ってるけど、大阪にあるって知らん人すらおるんとちゃう?」 「あぁ~」 「とにかく、このグリコのポーズはそりゃ印象に残るで。  もう、大阪で決まりやん、そんなん」 「でも分からへんねん」 「分からへんことない。オカンの好きな旅行先は大阪や。もぉ」 「でもオカンが言うにはな、  大阪ではない、ってゆうねん」 「ほな、大阪ちゃうやないかいっ!!  オカンが大阪ではないと言うんやから、大阪ちゃうがなっ!」 「そやねん」 「先ゆえよ!  俺がグリコのポーズしてる時、どう思っててんお前」 「ホンマもうしわけないよ、だから」 「ホンマに分からへんがなこれ。どうなってんねんもう」 「んで、オトンが言うにはな」 「オトン?」 「パリとちゃうか? って」 「……いや、オトン、見栄張りすぎや!」
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