アクマガワラウ

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アクマガワラウ

「どうしてもお金がないんだ」  父は私に、そう言って頭を下げてきた。原因が全くわからない。酒場は繁盛していたし、昨日だってたくさんの剣士や魔女のお客さんが来ていたはずだ。それなのに、どこをどう見回してもお金がないのだという。  このままでは、今日明日の食費さえもままならないのだそうだ。 「一体どういうこと!?」  私も、母と一緒に店中を探し回った。しかし、やはりどこをどう探してもお金がない。コインもお札も金券も何もない。何故こんなことになってしまったのか。  しかもこの現象は、私達の一家だけに起きていることではないという。近隣住民がみんな、お金がなくなってしまって大パニックになっているのだそうだ。 「魔王軍の仕業かもしれない。怪しい魔法を使うという話は、耳に入っているからな。……何にせよ、今日の食費さえない状況は一刻も早く打破しないといけない」  父は苦悩を顔に刻んで、二十二歳の私と、四十九歳の母に頭を下げてきた。 「唯一、魔王軍を倒しに来た旅の勇者だけが、モンスター討伐などで貯めたお金を大量に持っているのだそうだ。彼ら、行く先々の娼館でかなりのお金を落としていってくれているらしい。見目が好みにあれば、男も女も、年配者でも問題なく紳士的に扱ってくれるそうだ。……もしかしたら、お前達のことも……」  最後まで言うのはあまりにも辛かったのだろう。私も、心臓が引き絞られるような思いだった。確かに勇者様はなかなか精悍な見た目をしているし、まだ若い青年と来ている。そして、今私に恋人はいない。それでも、好きでもない相手に身体を売らなければいけないなんて、本当なら悪夢以外の何者でもないのだ。  それでも、私と母は精一杯の笑顔で頷いたのだ。家を守るため、魔王軍を倒すこともできない自分達にできることなどこれくらいなのだ。死ぬわけでもない。なら、少しくらいの苦痛などどうってことないではないか。 「わかったわ、お父様。私、頑張って勇者様に気に入られますね!」  私は、決意を胸に勇者に会いに行った。有難いことに、勇者は私の言葉を聞くと、可哀想に……と涙ながらに私と母を抱きしめてくれたのである。 「わかった。可能な限り、お金は工面しよう。……幸い、モンスターを倒して手に入るお金はなくなっていかないようだ。俺がたくさん稼いで、君達のお金を作ってみせる!」 「ありがとうございます、勇者様……!」  その晩勇者はとてもとても紳士的に私を抱いてくれた。優しい言葉、甘いマスク、そしてあまりにも慣れた手練手管に私はすっかりメロメロにされてしまった。悪夢かと思っていた一晩で、私は完全に勇者の虜となってしまっていたのである。  お金だけの関係ではなく、この人の恋人になりたい。そのためには、精一杯魅力的な女にならなければ。私がそう誓うまで、さほど時間はかからなかった。
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