慎二と孝太

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 こういうやり取りをする度に、少し不安になってしまう。孝太は僕に合わせているのではないかって。確かに昔からトカゲが好きだった。けれど、彼は、そこら辺にいる小さなトカゲを追い回したり、そいつがする変な動きを見るのが好きなのであって、イグアナがクールに泳ぐ姿を画面で見て喜ぶなんて彼らしくない。そんなのは、個性が(とぼ)しい僕みたいな奴の領分(りょうぶん)だ。やはり、外で実際に動いているトカゲをしばらく見ていないからなのだろう。そう思って動物園に連れて行くことにした部分もある。  隣を見ると、孝太は人の気も知らずに昨日のテレビの話をしている。最近の彼の見る番組は、僕も見ているものばかりだ。だからどうしたって話は(はず)む。僕は別に君にそんなことは望んでいないのに。  僕が孝太を連れ出すようになったのは10月に入ってからだから、もう二ヶ月になる。  孝太が引きこもってる事は、母さんが教えてくれた。おばさんが母さんに打ち明けたそうだ。はじめ、僕はとても信じられなかった。孝太とは夏休みに遊んだばかりだった。自分のことで手一杯で彼とは連絡を取っていなかったけれど、わざわざ考えるまでもなく、孝太は今も元気に()けずり回ってる、そう思っていた。  元々、僕はどちらかと言えばインドア派で、孝太はアウトドア派だ。彼の肌は一年中茶色がかっていて、いつだって元気に走り回っている、そんな奴だった。ところが、引きこもっていると聞いてから孝太の部屋に押し入って、そこで久しぶりに見た彼は、色白で、表情も(とぼ)しくなっていた。たったの二ヶ月で、人はこんなにも変わるのかと、目をみはったのを覚えている。  おばさんに頼まれたのもあって、それから時々、僕は彼を連れ出している。地元で遊ぶのは嫌かもしれないから、だいたいは電車に乗って少し離れた場所に行く。そうやっているうちに、僕の前ではよく笑うようになったけれど、元の姿は見る影もない。彼は今も僕の半歩後ろをついてきて、僕の趣味に合った話題を繰り広げている。汗をかきながら太陽の下を()け、僕を驚かせてくれる孝太はもう見られないのかもしれない。
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