獏飼い

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悪夢を喰らう獏を飼い始めたのはもう数ヶ月前のことだ。だが、それを手放したいと思ってる。この事を話すにはそもそものきっかけから話すべきだろうか。何故に俺は獏を飼ったのか。どうやってそれを手に入れたのか。 その獏を手にいれるまた一ヶ月前のこと、俺が彼女という存在を知った、いや彼女の魅力に気づいた。同じ授業を取っていたらしいのだが、これまであまり気づきもしなかった。まあ、その頃になって同年代での絡みが増え始めたのも一因なのだろうが。取りあえず、彼女に気を持ち始めた俺は彼女と仲良くなろうとした。だが、なかなか難しかった。いや俺の思い込みの激しい性格のせいかもしれないと思ってもいたが、彼女に嫌われているような気がしていた。そして、俺は悪夢を見始めた。彼女に振られる夢を毎日のように見るのだ。そんな夢を見て、学校では彼女と少し話す。こんな辛い状況が続いたのだ。 そうして、問題の獏を手に入れる話へとこれから進んでいくことになる。その悪夢を見始めて一ヶ月が経とうとしていた頃、見たことのない動物が死にかけているのを見かけたのだ。俺は動物というものをそれほど好きな方ではない、かといって瀕死の生き物を見捨てられるほどの冷酷さも持っていない。そいつを家に持ち帰った。取りあえず、何か食べさせたらいいだろうと思った。しかし、そいつはなにも食べてくれなかった。ソーセージや、ミルクやら色々試したけれど駄目だった。そいつは食べ物に目もやらないで俺の方をじっと見つめてきた。まるで俺を餌だと思っているかのように。 その夜、俺はまた彼女に告白をしようとしていた。しかしそれまでとはなにか違うかった。遠くから俺が拾った動物がのそのそとゆっくり歩いてきた。俺はそれを横目に彼女に告白した。返事を必死に待つ間にその動物は大きな口を開いて彼女を、俺を、夢全てを飲み込んだ。目が覚めたとき一ヶ月ぶりに寝覚めが良かった。俺はその時になって拾った動物が獏なのてはないかと思い始めた。悪夢を喰らうと聞いたことがある。もちろん、伝説のはずさ。しかし、実際に起きたのだ。そんなよくわからない感情になったのを覚えている。その動物は俺の部屋で眠っていた。どうしたらいいのか分からなかった。 その夜から俺はもう悪夢を見ることはなくなった。残念ながら彼女にオッケーもらう夢は見なかったが。この事は誰にも話していなかった。俺からは誰にも話していなかった。なのにだ… 獏を拾った三日後の朝、玄関のチャイム音に俺は起こされた。やって来たのは見知らぬ男。 「お前、獏を飼ってんだろ?俺の悪夢をどうにかしてくれ。知ってる知ってる。代金だろ。ほら、聞いた通りに金持ってきたから」 そいつはそう言って三万円を差し出してきた。俺が戸惑っていると、そいつはこう言って金をおいて出て行った。 「そうか、お前はまだ状況が飲めてないようだな。お前は獏飼いだ。悪夢を喰らってほしいと思うやつがお前のところにいっぱいやってくるさ。そいつらからは一律三万円を受け取れるんだ。金を払わなかったら、追い返せばいい。しつこい場合は獏様がどうにかしてくれる。運が良かったんだよお前は。羨ましいぜ」 俺はよく分からないが、とりあえず獏飼いになったらしい。それからというもの、俺のところには数日に一回悪夢を喰らって欲しいと言ってくる奴がきた。老若男女問わず様々な人が来た。ほとんどの人は三万円をすんなり払ってくれた。しかし払わないと言う人間が時々いた。始めてそんな人が来たとき、面倒だからわかりましたなんて言って追い返したら、その日の夢がとてつもない悪夢だった。これはきっと獏様のお怒りを受けたのだと思い、それからは厳しくすることにした。払わないと言う奴は無理ですと言って追い返した。それでも帰らない人は突然青ざめた顔をして逃げ帰るということがあった。恐らく獏様のお怒りを受けたのだろうが。 そんな風な生活が数ヶ月続いたのだ。だが、この生活に俺は終止符を打ちたいのだ。勿論、数日に一回三万円をもらえるなんて素晴らしい生活だ。理由は彼女だ。彼女とはこの数ヶ月変わらずの関係だった。いや、ちょっと前までは同じだった。しかし、ここ最近彼女が僕を少し避けているような気がしていた。そしてそれが実証された。 「おまえさ、獏飼ってんだろ。葵さんが最近悪夢にうなされてるらしいんだよ。三万払うから助けてやってくれよ」 そう言ってきたのは、彼女と仲良しの三杉さんだった。気の強いことで男の間では話題になってる人だ。他人の悪夢を喰らって欲しいという願いは承諾されるらしいことを少し前に知っていたので俺は承諾した。 その夜、俺の夢に獏が出てきた。念力のような声が聞こえた。 「葵さんの悪夢のようです」 そう聞こえた。獏様が俺に他人の悪夢を見せるなんて始めてのことだった。一体どんな夢なのだろうか。覚悟して夢に目を向けた。 それは、彼女が俺にコクられている夢だった。 こんな悲しいことがまた起こるかもしれないと思ったら獏を飼っていることが怖くなったのだ。
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