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「わかってるよ。近所の井戸端おばさん達に知られた次の日は、私と菫ちゃんが血みどろの喧嘩でもしたことになってそうだよね」
呑気な由真に菫は笑えない。
なぜなら、初めて会ったあの日を思い出したから。
決して懐かない猫のような由真に手を焼き、一緒に暮らすのを諦めたあの日を。それを思ったら、今の状況は不思議でならない。
こうして由真と仲良くしていられるのも、間に入って世話を焼いてくれた海人のおかげだと菫はわかっていた。
でも、まだ結婚したいとは思わない。
結婚の決め手は何だったかと菫は視線を宙にさ迷わせた。
すると、玄関のインターホンが鳴った。
昔ながらの甲高い、ピンポーンと聞こえるその音に菫と由真は顔を見合わせる。
「あれ、菫ちゃん。今日、誰か来る予定あった?」
だらけて気を抜いていた由真が、不思議そうに菫を見つめた。
「ないよ。誰だろ?」
今時のモニターホンなどではないため、誰が来たのか画面越しで確認出来ない。不安に思いながらも菫が立ち上がると、またインターホンが鳴り響く。
「宗教かセールスかな」
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